介護士と並んで、深刻な人員不足が話題になっている保育士。
その不足解消のため、介護福祉士や社会福祉士、精神保健福祉士の有資格者が保育士の資格を取得する際、試験科目の一部が免除されることが決まりました(*)。2018年からの導入が検討されています。
また、保育士や介護福祉士、看護師の資格は、養成課程の一部科目を共通にする方針も決まっています。複数の資格を取得しやすい環境が整えられつつあります。
介護だけではなく、他分野の知識も視野に
住み慣れた地域での生活の継続を支えるための「地域包括ケア」が求められるようになり、地域での支え合いの重要性が指摘されています。
「地域包括ケア」は、当初、主に高齢者を支える仕組みのことを指していました。
しかし、次第に広がりを見せ、今では障害を持つ人や子ども・子育て家庭、さらには生活困窮者も含めた概念に発展しつつあります。
サポートを必要とする人みんなを支えていく。そんな仕組みとして、「地域まるごとケア」「共生ケア」等と言われることもあります。
そうした様々な人たちをまるごと支えていくには、介護福祉士の資格だけでなく保育士の資格や精神保健福祉士の資格もあった方がいいかもしれません。
資格の取得まではいかなくても、少なくとも、様々な分野の知識を持っておく方が、ケアがスムーズに進みそうです。
障がい者、高齢者、子どもなどが同じ空間で過ごす意味
サポートを必要とする様々な人たちをまとめてケアする「共生ケア」「まるごとケア」には、どんないいところがあるのでしょうか。
年齢や障害の有無に関係なく利用できる共生ケアの発祥とも言われている「富山型デイサービス」では、障害児・者、高齢者、子どもが同じ場所で一緒に過ごします。
そうすると、精神障害者が障害児におやつを食べさせてあげたり、認知症を持つ高齢者が身体障害者にお茶を飲ませたり、口からこぼれる唾液を拭いてあげたりするシーンが、日常的に生まれます。
これがどういう意味を持つかと言えば、それぞれがその場で役割を持つことができるということです。
認知症を持つ人ばかり、障害を持つ人ばかりを集めれば、役割が固定し、いつもお世話になる人が生まれてしまいます。
しかし、障害を持つ人、認知症を持つ人、子どもなど様々な人がごちゃ混ぜになって過ごせば、できる人ができることを担い、それぞれに役割が生まれます。
共生ケアでの介護が引き起こす“予期せぬこと”に対応できる力を
ある共生型の施設では、拘縮が強く首が全く回らなかった障害者が、認知症を持つ高齢者の食事介助を受けて、少し首が回るようになったという話があります。
高齢者の食事介助に合わせて、障害者が頑張って首を動かし、顔を向けようとするうち、可動域が広がったというのです。介護職が上手に食事介助をしていたら、その障害者の首の可動域が広がることはなかったでしょう。
そうした意外性も共生ケアの醍醐味と言えます。しかしそこには誤嚥のリスクも存在します。
役割、立場を固定しない共生ケア。保育士や介護士などが連携しながら対応していく職場として、これからきっと増えていくことでしょう。
そこで展開されるごちゃ混ぜの介護では、良くも悪くも、予期せぬことが起こりそうです。
これからのケアの担い手には、それを受け止めて対応していく胆力が必要かもしれません。
●こちらの記事も参考に
→ 2018年から始まるサービスとは?障がい者と高齢者が共生できる社会へ
→ 介護職から、看護師や理学療法士へ。互いに進路変更がしやすくなるかも!
<文:宮下公美子 (社会福祉士・臨床心理士・介護福祉ライター)>
*保育士資格、介護士ら取得しやすく 一部試験免除(日本経済新聞 2017年5月24日)