投資ファンドが「地域で医療と介護を一体的に提供」する新会社を設立
介護の世界にも、投資ファンドが次々と入ってきています。
投資ファンドとは、投資家の資金を預かってその資金を有望な投資先に投入し、収益を上げることを目的とした集団。
経営が傾いた企業を安く買い、経営を立て直してから高値で再びその企業を売却し、利ざやを得る。そんなイメージが強いかもしれません。
しかし、投資ファンドが行っているのは、そんな投資ばかりではありません。
2017年7月には、投資ファンドが医療法人と連携して、地域ヘルスケア連携を目指す新会社を立ち上げたというニュースがありました(*)。
新会社では、今後、5~10年を掛けて約300もの薬局や病院などの医療、そして介護の事業者を買収。それを一括して運営していくことで、経営効率のよい仕組みをつくろうというのです。
薬局、訪問看護、介護事業、介護施設、病院を一つの事業体で運営していれば、そして、適切なケアマネジメントが行われれば、利用者の状態像に応じた最適な環境でのケアが提供できます。
急性期病院で治療がすみ、少しのリハビリで在宅復帰ができそうだということであれば、病院からリハビリについての指示を受けた介護老人保健施設へ。
在宅復帰可能な状態まで回復したら、介護老人保健施設との連携が取れている通所リハビリや訪問看護、訪問介護などを組み合わせたケアプランを組んで在宅へ。
状態が悪化したときは、再び介護老人保健施設でリハビリをしたり、場合によっては、入院したり。
そのときの状態に最もあった場での治療や介護が受けられるというわけです。医療費、介護費も低減されることが期待できます。
しかし、この一体的な事業運営の怖いところは、外部からのチェック機能が入る仕組みを作らないと、不適切なサービス提供があっても修正される機会がないという点です。
そうなると、医療費、介護費は低減どころか、青天井にふくれあがる恐れがあります。
ケアマネジメントだけは、全く関係のない独立型事業所にしか依頼できないなど、何かチェックが入る仕組みが必要でしょう。
介護も医療も地域ごとの運営にすれば、より効率的になる
機械化、システム化が難しく、事業活動の多くを労働力に頼らざるを得ない介護や医療は、効率的な事業運営が難しいといわれています。
サービスを誤った視点から効率化すると、質の低下や職員の意欲の低下につながりかねません。
一方、制度面を見ても、介護は効率的な制度とは言えません。
たとえば、よく言われるのが、デイサービスの送迎車。同じエリア、同じ時間帯に様々な事業所の送迎車が何台も走り回っているのは、非常に非効率的だという指摘があります。
これを、エリア・ルート別送迎制にし、複数の事業者が合同、あるいは分担して運営する方式にすれば、効率化が図れそうです。
介護保険のサービスは、いずれ、地域ごとの運営にしていくべきだという指摘があります。
地域ごとに話し合って、必要なサービスの種類、量を決め、地域ごとに職員を雇用し、介護報酬も地域に対して支払う。そうすることで、地域ごとに最適なサービス基盤整備が行われ、有効で効率的なサービス運営が可能だというのです。
市区町村ごとの運営である地域密着型サービスを、さらにもっと狭いエリアで運営していくイメージです。
一つの市区町村でも、エリアによって、人口も、高齢化率も、地域課題も違うものです。一つの市区町村を分割し、エリアごとの特性に合わせたサービスの整備、サービス内容の検討を進めることで、効率的な運営ができるはずです。
もっとも、地域力の差が非常に大きく現れてしまいそうですが…。
冒頭で紹介した投資ファンドによる地域ヘルスケア連携は、はたしてどのようなサービス基盤整備を行い、連携した事業を展開していくのでしょうか。注目していきたいですね。
<文:宮下公美子 (社会福祉士・臨床心理士・介護福祉ライター)>
*医療・介護 一体で提供 投資ファンドが新会社 社会保障の効率向上(日本経済新聞 2017年7月28日)