2016年、減り続けていた「在宅死」がわずかに増加
治る見込みがない病気になった場合、最期はどこで迎えたいか――。
2012年、55歳以上の男女に対して内閣府が行った「高齢者の健康に関する意識調査」では、この質問に54.6%が「自宅」と答えました。
次いで多かったのは、「病院などの医療施設」の27.7%。「高齢者向けのケア付き住宅」や「特別養護老人ホームなどの福祉施設」は、それぞれ4%強でした。
住み慣れた我が家で最期を迎えたい。あるいは、十分な医療を受けながら最期を迎えたい。
そうした思いを持つ人が多く、介護施設やケア付き住宅は、この調査の段階でまだ選択肢の上位には入ってきていないようですね。
▼最期を迎えたい場所
*平成29年版高齢社会白書(内閣府)
一方、2016年の人口動態統計から、在宅死が前年から0.3%ふえたことがわかりました(*1)。
減り続けていた在宅死が微増に転じたようです。といっても、全体に占める割合は、まだわずか13%。
病院や診療所などの医療機関で亡くなった人は0.8%減ですが、全体の75.8%を占めます。
老人ホームなどの施設で最期を迎えた人は0.6%増の9.2%でした。施設での看取りは年々増えています。今後はもっとこの割合が高くなるのではないでしょうか。
「在宅死」の半数以上が「異常死」だった横浜市
この在宅死の定義は、あくまでも「自宅で亡くなった」ということです。つまり、亡くなり方は限定されていません。
この記事でも、在宅死には孤独死が含まれ、それが在宅死の増加の一因となっている可能性もあることを指摘しています。
孤独死だけでなく、自宅で亡くなった人には、自死や風呂での溺死などの事故死、つまり「異状死」も含まれています。
ヘルパーが訪問したら応答がなく、家の中に入ってみたら倒れて亡くなっていた、というケースも時折、耳にします。
しかし、これまで「異状死」の数については、あまり注目されていませんでした。
そこで、より正確に在宅死の実態を把握するため、死亡診断書から死亡場所、直接の死因、死亡診断をした医療機関を抽出し、分析した報告があります(*2)。
その報告では、2013年の横浜市などの死亡診断書約3万3000件を分析。74%が医療機関、15%が自宅、7%が老人ホーム等で最期を迎えていたことを伝えています。
自宅で亡くなった人をさらに細かく見ていくと、看取られた在宅死は48%。実は、半数強が「異状死」だったことがわかりました。
在宅死と聞くと、看取りをイメージしますが、実態は少し違うということです。
女性の3倍以上にもなる「男性の異状死」
この報告では、異状死をさらに病死・自然死以外の「異状死(1)」と、病死や自然死など孤独死を含むと思われる「異状死(2)」に分類しています。
興味深いのは、在宅死のうち「自宅看取り」で死亡した人の死因と、「異状死(2)」の人の死因が異なっていることです。
看取られた人はガンや老衰、心疾患、肺炎等で亡くなっています。在宅療養の最後に死を迎えたというイメージです。
一方、「異状死(2)」の原因疾患は、5割強が心疾患。次いで多いのは、脳血管疾患でした。「異状死(2)」は、心筋梗塞や脳卒中など、本人も予期せぬ死が多かったのかもしれません。
「異状死(2)」はまた、その人数に男女で大きな開きがあるのも特徴です。
15歳から64歳までは男性が女性の4倍強、65歳から74歳までの前期高齢者では3倍強となっています。
男性は40代から孤独死があるといわれていますが、女性に比べて社会的つながりの少ない人が多いのでしょうか。
介護職としては、ひとり暮らしの男性を自宅の外に連れ出し、社会的つながりを持ってもらうような働きかけを心がけたいところです。
貴重な報告ですが、厚生労働省が行っている人口動態調査では、ここまで詳細な分析は行われていません。
それはそもそも人口動態調査の調査項目に、医師が死亡診断後に作成する「死亡診断書」か、監察医が異状死を検案して作成する「死体検案書」かを区別する項目がないためだとのこと。
在宅死の微増が、孤独死の増加なのか、自宅看取りの増加なのか。人口動態調査の項目が整備されれば、いずれ明らかになるのかもしれません。
<文:宮下公美子 (社会福祉士・臨床心理士・介護福祉ライター)>
*1 人口動態統計「在宅死」微増13% 東京17.5% 孤独死も要因か 16年(毎日新聞 2017年9月17日)
*2 死亡診断書データから見えてくる 看取りの実態【PDF】