「科学的に裏付けられた介護」とは
2017年10月、厚生労働省が新たに「科学的裏付けに基づく介護に係る検討会」を立ち上げました(*1)。
これは、客観的データに基づき、
自立支援などに効果があることが裏付けられたサービス=「科学的介護」を国民に提示していくため、科学的介護の実現に特に重要と思われるエビデンスが何かを検討するようです。
今後、さらにエビデンスを集めるべきテーマとしては、栄養、リハビリテーション、(主としてケアマネジャーによる)アセスメント、ケアマネジメント、認知症などがあげられています。
では、「科学的に裏付けられた介護」とはいったいどのような介護でしょうか。
これについては、2017年4月に研究者の筒井孝子さんが、首相官邸での政策会議で説明しています(*2)。筒井さんは、介護保険制度創設時に、要介護認定基準をつくった研究者です。
筒井さんによれば、
「科学的に裏付けられた介護」とは、「利用者の状態像ごとの標準的な心身機能の変化」よりも、機能の維持・向上を図ることのできる介護(=パフォーマンスの高い介護)のこと。
これは、すでにある「ビッグデータ」、「介護保険総合データベース」を活用することにより、抽出できるといいます。
つまり、以下のようなことです。
(1)「介護保険総合データベース」の分析によって、利用者の年齢、性別、疾患などの状態像による、標準的な心身機能の低下あるいは維持・改善の軌道を明らかにする
(2)利用者の状態像別に提供したケアを見ていくと、標準的な低下あるいは維持・改善モデルにより、パフォーマンスの高いケアが見えてくる
ちなみに、「介護保険総合データベース」とは、介護保険給付費明細書(介護レセプト)や要介護認定データ等の電子化情報を収集したものです。これまでには、「地域包括ケア『見える化』システム」(*3)の構築に活用されています。
▼「介護保険総合データベース」の分析でわかる軌道の違い
(*2)資料より引用
「科学的」な介護をすれば、どんな介護職でも結果は同じ?
さて、“そもそも論”になりますが、「人」が「人」に対して行う対人サービスである介護は、「科学的」でありえるのでしょうか。
「科学的」とは、同じ条件、同じ手順で取り組んだとき、いつ誰がやっても同じ結果が出ることをいいます。
介護に「同じ手順」で取り組むことは、それがいいか悪いかは別として、可能かもしれません。しかし、「同じ条件」については、介護側の条件は整えられても相手の状態については同じにはできません。
ですから、いつ、誰がやっても同じ結果が出るようにするのは、なかなか難しいことです。
条件の「同じ」というとらえ方を緩やかにして、「80代、男性、脳梗塞で右麻痺がある」のような外的条件だけを整えて、当てはめていくことになるのでしょうか。
同じ条件の利用者を集めて同じリハビリプログラムを行っても、利用者の意欲や性格、リハビリ担当者の声かけのうまさ、利用者との相性等によって、結果は違ってくるように思います。
同じ条件でサービスを提供しても、新人とベテランでは差が出るところにこそ、介護職の専門性があります。
そのあたりも含めて、自立支援につながる介護のノウハウを科学的に検証してもらえると良いのですが。検討会の行方を見守りたいですね。
<文:宮下公美子 (社会福祉士・臨床心理士・介護福祉ライター)>
*1 「科学的介護」目指し、ケアマネ関連のエビデンスを収集へ―厚労省(ケアマネジメント・オンライン 2017年10月12日)
*2 「科学的に裏付けられた介護」を基盤とした介護サービスの適正化【PDF】(第23回 医療・介護情報の分析・検討ワーキンググループ)
*3 地域包括ケア「見える化」システムとは(厚生労働省)