2018年度、「身体拘束」の新たなルールを制定
介護施設では虐待と見なされ、原則として禁止されている身体拘束。
高齢者への虐待が問題視されている中、不当な身体拘束を減らしていくため、2018年度から身体拘束に関する新たなルールが追加されました(*)。
介護施設では、下記のようなやむを得ない理由がある場合を除いて、身体拘束は禁止されています。
・入所者(利用者)本人または他の入所者(利用者)等の生命または身体が危険にさらされる可能性が著しく高い
・身体拘束その他の行動制限を行う以外に代替する看護・介護方法がない
・身体拘束その他の行動制限が一時的である
また、身体拘束をする際には、拘束が必要な理由、拘束の方法、拘束の時間帯と時間、拘束開始と解除の予定を記録することが義務づけられています。
これに加えて、2018年度からは次の3つのルールが新たに義務づけられました。
・身体拘束をする判断基準について、施設の職員向け指針の作成
・身体拘束をした判断の適否の検証、問題点の改善策を検討する委員会の開催(3カ月に1回以上)
・身体拘束ゼロに向けた研修会の定期的な開催
さらに、2018年度からは対象となるサービス形態も増え、身体拘束に関するルールを違反した事業者への介護報酬の減算額は、大幅に増えています。
●「身体拘束廃止未実施減算」の変更点(平成30年度(2018年度)介護報酬改定)
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改定前 |
改定後 |
減算単位 |
5単位/日 |
基本報酬の10%/日 |
対象サービス |
介護老人保健施設、介護老人福祉施設、介護療養型医療施設、地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護 |
介護老人保健施設、介護老人福祉施設、介護療養型医療施設、地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護、特定施設入居者生活介護、介護医療院、認知症対応型共同生活介護、地域密着型特定施設入居者生活介護 |
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介護施設で「利用者の自由」と「安全確保」はどのように両立できるか
精神科病院でも「身体拘束のありかた」は見直されつつある
身体拘束については、認知症を持つ人の入院が増えている精神科病院でも、大きな課題となっています。
精神科病院では、精神保健指定医が必要と判断すれば、代替方法が見つかるまで一時的にやむなく行う行動制限として身体拘束が認められています。
しかし、「必要」という判断の基準は曖昧で、歩行が不安定で転倒の恐れがあるというだけで車いすに拘束されていることも少なくありません。
その場合、介護施設以上に見守りの目が少ないことが、拘束はやむを得ないと判断する理由として挙げられることもあります。
一方で、精神科病院の中にも原則として拘束を行わない方針を掲げる病院もあります。
新しく着任した院長の強い決意のもと、身体拘束ゼロに動いたある病院では、当初、その方針はなかなか受け入れられなかったと言います。
病院では介護施設以上に、「安全の確保のために身体拘束は必要」という考え方が根強いからです。
それでも、「身体拘束は原則禁止」としたことで、スタッフは「身体拘束をせずにどう対応するか?」を真剣に考えるようになっていったとのことです。
その病院では、今では認知症病棟での身体拘束はほぼゼロだといいます。
精神科病院で身体拘束ほぼゼロを実現できた背景には、家族への丁寧な説明と同意があります。
入院時に、原則として身体拘束をしないことを伝え、それに伴うリスクについて理解をしてもらった上で入院してもらうのです。
病院が介護施設以上に安全の確保を大切にするのは、病院が生活の場ではなく、命を守る治療の場だからです。
病院で転倒による骨折があれば、家族からは介護施設での事故以上に厳しく責任を問う声が上がる可能性があります。だからこそ、入院時の説明と同意は大切なのです。
利用者の「安全」と「尊厳」はどちらが大切なのか
安全のために、人としての尊厳を犠牲にしても事故を防ぐのか。
治療や看護・介護の場であっても、絶対的な安全より尊厳を大切にするのか。
患者の立場になって考えていくことで、上記の病院は人としての尊厳をより重視するという結論に達したということでしょう。
このとき、どうしても転倒による骨折などの事故を避けたいと考える家族は、拘束する病院への入院を選択するのかもしれません。
つまり家族の考えが変わらなければ、病院にせよ介護施設にせよ、患者、利用者をケアする側だけの意識を変え、努力をしていても、なかなか身体拘束を完全になくすのは難しいということです。
介護施設では、スタッフの意識はかなり変わってきており、身体拘束をしないためのケアの方法を考える施設が多くなっています。
しかし一方で、家族の中には、今も「介護のプロに任せれば事故など起きるはずはない」と考えている人は少なくありません。
大切なのは、施設側が家族に丁寧に説明して、その思い込みを解いていくこと。そして、事故を完全に防ぐより大切なことがあると理解してもらうこと。
拘束をなくすための具体的な対応方法の検討と共に、家族へのそうした働きかけも、身体拘束ゼロ実現のためには、大切なことなのだと思います。
<文:介護福祉ライター・社会福祉士・公認心理師・臨床心理士
宮下公美子>
*「身体拘束」施設ごとに指針を 虐待防止へ 厚労省(日本経済新聞 2018年1月17日)
公開日:2018年2月8日
最終更新日:2020年4月9日
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