人材不足、高齢者の減少…。様々な要因で特養の空室はさらに増加する?
2018年7月初め、日本経済新聞の一面トップに、「老人ホーム 整備進まず」という見出しが躍りました(*)。2015~2017年度に計画されていた特別養護老人ホーム(特養)の整備が、3割未達成に終わったという記事です。
「え? これがトップニュース?」と思った介護職の方も多かったのではないでしょうか。
政府は、「介護離職ゼロ」を実現するため、2020年初めまでに特別養護老人ホームの整備を進め待機者ゼロを目指すことを、2016年に明らかにしました。
この時点で、介護職の間から、「介護離職ゼロって、介護職の離職ゼロじゃないのか?」「施設をつくっても働く人が足りないのに…」という声が上がっていました。
特養は地方都市ですでに空きが出始めていることは、介護職の方はご存じですよね。特養の空き状況については、2017年3月に発表されたみずほ情報総研の調査結果でも明らかにされています。
開設後10年以内の全国の特養1151件(有効回答550件)に対するこの調査では、フリーアンサーとして、「当施設でも申込者の減少を感じている」「待機者が少なく、いざ入所案内すると、『遠いからやめます』『まだ家で頑張ります』など、キャンセルという結末が多くある」という記述がありました。
さらには、「入所者の重度化に伴い、死亡退所も増え、施設利用の回転数が早くなっている。従来の考え方で施設整備計画を立てるのは危険」という指摘も。
2040年を過ぎれば高齢者数は減少に転じる局面を迎えると言われています。特養をつくり続ければ、全国どこでも空室が増えていく時代は必ずやってきます。
計画されていた特養の整備の3割が未整備に終わったのは、よかったのではないかとも言えるのです。
求められているのは、地域の介護力アップと最後の砦としての特養
一方で、在宅介護の限界を迎え、どうしても施設での介護が必要な人たちがいるのも事実です。低所得であるため、有料老人ホームなど、特養以外の選択肢を検討しにくい人もいます。
特養をこれ以上増やさずに対応していくことを考えるとすれば、入所者をさらに限定していく必要が出てくるのかもしれません。
ある地方都市では、訪問介護、小規模多機能型居宅介護、認知症グループホームなど、在宅介護の拠点をエリア毎に整備して支援を充実させ、在宅限界点を高める取り組みをしています。
特養も整備していますが、入所するのは重介護の高齢者のみ。一時期、入所者の平均要介護度は4.5にも達したと言います。
高齢者を在宅で支える仕組みが十分に整備されているため、在宅限界点が高いことも平均要介護度を高めている大きな要因であると、上記の特養の関係者は語ります。
地域の住民も、「どうしても在宅での介護が難しくなったときには受け入れてくれる施設があるから、できる限り在宅で介護する」という意識でいるのです。特養は「最後のセーフティネット」なのです。
在宅での介護サービスを提供する事業者・施設と住民が、そうした共通認識を持てるようになれば、もう特養はつくらなくても良くなるのかもしれません。
皆が同じ意識を持って動く地域。介護職のみなさんには、ぜひそうした地域づくりに取り組んでいただければと思います。
<文:宮下公美子 (社会福祉士・臨床心理士・介護福祉ライター)>
*老人ホーム 整備進まず 特養、計画3割未達 本社調査 事業者・人材が不足(日本経済新聞 2018年7月5日)