2020年07月23日

豪雨・台風災害時に、高齢者を守れる介護施設/守れない介護施設の違いは? | 「介護求人ナビ 介護転職お役立ち情報」

台風・豪雨で今年も高齢者が犠牲に…

2002年7月初め、九州を記録的な豪雨が襲い、熊本県南部には大きな被害が出ました。
球磨川の支流近くにある特別養護老人ホームAでは、入所者約60人のうち14人が亡くなりました(*1)。実に痛ましいことです。

川の近くに立地している高齢者施設が水害に遭うケースは、これまでにもありました。
2016年の台風10号では、岩手県の認知症グループホームBで入居者9人全員が亡くなっています(*2)。

一方、2019年の台風19号では、埼玉県の特別養護老人ホームCが1階の天井まで浸水しています。しかしこちらの施設では、120人の入所者全員が無事避難しました(*3)。

水害はどれ1つとして同じ経過をたどるものはなく、結果だけを比較するのはナンセンスかもしれません。
しかし、なぜ、このような大きな違いが生じるのかを考えてみることは大切です。


『入居者全員死亡』2016年岩手県グループホームBの場合

報道から、どのような違いがあるかを見ていきます。

2016年の岩手県のグループホームBは、報道によれば、
・運営法人は、地元自治体が「避難準備情報」を発令したことを把握しながら、入所者を避難させていなかった(発令した情報の意味を理解していなかった)
・水害避難のための対策マニュアルが用意されていなかった
・台風接近のため、夜勤担当の職員が出勤できず、日勤だった所長がそのまま残って対応していた
とのこと。

つまり、通常の人員配置通り、職員1人で9人の入所者に対応していたということですね。避難マニュアルも、避難準備情報についての知識もなく、夜間に発生した水害にたった1人で対応し、9人を救助するのはほとんど不可能だと思います。

ちなみに「避難準備情報」とは、高齢者や体の不自由な人、小さな子どもなど、避難に時間がかかる人とその人たちの避難を支援する人に、早めの避難を促すために発令されるものです。

2016年の台風10号の被害のあと、「誰に向かって発令される情報かわかりにくい」「具体的な行動をイメージしにくい」などの声があり、「避難準備・高齢者等避難開始」と名称が変更されています。


高齢者が助かった施設と助からなかった施設の差は

次に、2020年の熊本県の特別養護老人ホームAでは、報道によれば、
・岩手県で9人が亡くなったグループホームBと立地が似ていた
・過去何度も浸水被害に見舞われていた
・地元自治体は、7月3日午後5時に「避難準備・高齢者等避難開始」を発令していた(施設で14人が心肺停止で見つかったのは7月4日)
・避難計画の作成対象施設だった(作成していたかどうかは不明)
とのことです。

これに対して、2019年の埼玉県の特別養護老人ホームCでは、報道によれば、
・午前2時頃、浸水に気づいたら、どんどん水位が上がってきた
・20人以上の職員が総出で平屋建ての棟から3階建ての別棟に移動させた
・明け方には停電となり、エレベーターが動かなくなったが間に合った
・20年前に水害に遭い、その教訓を生かして避難マニュアルを作成し、避難用に3階建ての別棟を建てていた
とのこと。

「急激に水かさが増した」とのことですから、全員が避難できたこの施設での水害の進行が他の施設と比べて必ずしも緩やかだったとは言えないように思います。

また、120人規模の特別養護老人ホームで、夜勤帯に20人以上職員がいることはまずありません。つまり、この施設では、それだけの人数の職員を、台風の被害に備えて待機させていたと考えられます。

この施設では、避難マニュアルも作成されており、避難するための別棟も建てていたとのこと。結局は、危機管理意識の高さが他の2施設とは違っていたと言えるのではないでしょうか。


備えがあれば犠牲者を出さずにすむという事実

「数十年に一度の豪雨」が、最近毎年のように発生しています。今後も続くのかもしれません。また、東海地方や首都圏では、大地震の発生にも備えていく必要があります。

いつか起こることは、「いつか」ではなく、「明日」起こるかもしれません。

120人規模の特別養護老人ホームでも、被害を想定して備えておけば、少なくとも水害については、犠牲者を出すことなく避難できたのです。この事実は実に重いと思います。

「高齢者施設の災害対応で犠牲者を出さないなど無理だ」と、最初からあきらめ、おざなりの対応をすることは許されません。

全国の高齢者施設関係者には、埼玉県の特別養護老人ホームによる水害対策、対応を手本として、すぐにも対策を取ってほしいと思います。

<文:介護福祉ライター・社会福祉士・公認心理師・臨床心理士 宮下公美子

*1 熊本豪雨 高齢者避難、教訓生かせず 水害、岩手で4年前9人死亡(毎日新聞 2020年7月6日)
*2 【台風10号濁流襲う】岩手・岩泉町GH「楽ん楽ん」入所者全員死亡(ケアマネタイムス 2016年09月1日)
*3 ゴボゴボと音、すぐに上へ 埼玉の老人施設で一時孤立(朝日新聞DIGITAL 2019年10月13日)


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