長い間、介護の仕事に関わってきた人の中には、管理職としてキャリアアップしたいと考える人もいるのではないでしょうか。あるいは、これまでのキャリアを活かして、介護業界でリーダーシップを発揮したいと考える別業種の管理職経験者もいるかもしれません。
ここでは、介護の管理職をめざす人に向けて、向いている人や向いていない人、必要なスキルや知識について解説していきます。
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1 介護業界の管理職とは?
2 管理職に求められる5つのスキル
3 管理職に不可欠な知識とは?
4 介護管理職に向いている人の特徴
5 介護管理職に向いていない人の特徴
6 組織をまとめる力や自分で考える力は管理職に不可欠
一般企業の管理職というと、「本部長」「部長」「次長」「課長」「係長」など、部下を指導して管理し、一定の決定権を持つ役職を思い浮かべるでしょう。
それでは介護の現場で言う『管理職』にはどんな職種があるのでしょうか。
介護の現場における管理職は、現場のスタッフをとりまとめ、マネジメントする人のこと。
老人ホームや介護老人保健施設、グループホームといった介護施設の施設長や所長・管理者、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)の支配人、訪問介護ステーションの所長や管理者、介護福祉施設のエリアマネージャーなどが管理職に該当します。そのほか、「介護マネージャー」「センター長」など、事業所や施設によっては独自の名称で管理職を設けているところもあります。
管理職に求められるスキルというと、部下やスタッフを束ねるマネジメント力をイメージする人も多いのではないでしょうか。
しかし、マネジメントとひとことで言ってもその範疇は広いもの。具体的にどのようなスキルが求められているのかを解説します。
介護現場では、介護福祉士にケアマネジャー、看護師、作業療法士、栄養士など、さまざまな専門知識を持つ人材が、日々連携しながら仕事に携わっています。トラブルや課題は、複数の職種にまたがって発生することも多いでしょう。
そのため、介護業界の管理職は、基本的な介護の知識はもちろん、それに付随する幅広い情報を網羅していることも必要となります。また、介護のスキルとともに大切なのが、法令や介護保険に関する知識。法改正も度々行われるため、管理職はその都度しっかりと情報をアップデートしていくことが大事です。
現場の状況を俯瞰し、業務を円滑に進めていくためのリーダーシップはとても大事。しかしながら、介護の世界で働くスタッフは、キャリアや年齢、性別にばらつきがあり、強引に引っ張っていくだけでは、うまくまとまらないケースもあります。
明確な目標を設定しチームを引っ張りつつも、スタッフの適性や状況に合わせた働きかけも必要となります。
また、規模が小さな事業所や施設の場合、スタッフの欠員が出れば、管理職の立場の人がその代わりを補うべく率先して現場に出ることも必要です。スタッフや利用者の声を受けて、よりよいサービス提供のために動く行動力も試されるでしょう。
現場で今、何が課題となっているのか、スタッフはどのような悩みを抱えているのか、利用者は何を望んでいるのか。機会を設けて話を聞くという方法もありますが、日々コミュニケーションを取っていると、そうした課題が自然に耳に入ってくることも少なくありません。
話をしやすい空気を作るだけでなく、毎日現場に出てスタッフや利用者さんと会話をしたり、大きな事業所でもスタッフや利用者さんの名前をしっかり覚えるなど、自分から働きかけていく積極性も大事です。
ただ話を聞くだけではなく、相手をより深く理解するための傾聴力も必要と言えます。
スタッフの育成や指導も、管理職には大切な仕事です。
人材育成マニュアルの見直しや作成、研修や講座の設定、スタッフと面談しキャリアプランの確認なども行います。初任者研修修了で入社したスタッフがいれば、タイミングを見て介護福祉士の国家資格の取得について打診することも必要になるでしょう。
しかし、行動や実績が伴わない口だけの指導では、スタッフからの信用が得られません。自分で実際に経験して身に付けた技術であれば、アドバイスもスタッフに響きやすくなります。「現場をよく知る管理職」としてスタッフからも信頼され、相談も受けやすくなることでしょう。
自分ひとりだけで組織を引っ張っていくのではなく、チームリーダーにも任せて業務を遂行させることも大切。そのためには人を見極めて、適材適所で人材配置するといった人材マネジメント力も重要です。
求人の応募者の面談を行い採用者を決定したり、勤務のシフトを作成することも、管理職の仕事。時にはスタッフの間で人間関係のトラブルも発生することもあり、その調整力も問われます。
また、施設長や所長クラスになると、コスト管理が非常に重要になってきます。利用者に満足度の高いサービスを提供しつつ、いかに不必要なコストを抑えて利益を生み出すか、多角的に考える力も必要です。
介護業界で管理職として働くために、まずしっかりと備えておきたいのは介護サービスや介護保険に関する知識。先述したように、介護保険法の内容が改正されたり、介護サービスの介護報酬が変わることもあるためです。
法令・指定基準違反が発覚すると、行政指導や処分を受けることもあり、介護施設としての信用を大きく落としてしまう可能性もあります。
施設や事業所のトップである施設長として働く場合は、施設の種類によって必要な資格が定められています。
特別養護老人ホームの施設長になるには「社会福祉主事の要件を満たす者」「社会福祉事業に2年以上従事した者」「社会福祉施設長資格認定講習会を受講した者」のいずれかに該当しなければなりません。
グループホームの施設長になるには「認知症高齢者の介護に3年以上従事した経験を持つ者」「厚生労働大臣が定める「認知症対応型サービス事業管理者研修」を修了した者」のどちらも必要です。
有料老人ホームやデイサービス、訪問介護サービスでは必要な資格要件はとくにありませんが、最低限、介護職員初任者研修の修了者程度の介護知識を持っていた方がいいでしょう。
リーダーシップやコミュニケーション力、介護に関する基本的な知識が必要とされる介護業界の管理職。実際にどのような性格や資質の人、どんな働き方ができる人が向いているのでしょうか。
ここでは具体的に介護業界の管理職に向いている人の4つの特徴についてまとめました。
■自分の頭で考えて行動できる人
忙しい介護の現場では、機械的に業務をこなすことでいっぱいになることもあるかもしれません。そのような中でも、一方的に指示されたことだけをこなすのではなく、「なぜこの作業が必要なのか」「もう少し効率的に動くにはどうしたらいいのか」など、自分の頭で考えて行動ができる人は管理職に向いています。問題が起きたときや課題があるときも、自分から考えを提案して問題解決に向けて積極的に動く人も、管理職としていい働きができることでしょう。
しかし、それも客観的な視点があってこそ。根拠のない考えやひとりよがりの考え方、偏った考え方では、余計に現場が混乱してしまう可能性もあります。
全体を見通した上で、時には他の人の意見も聞きながら、柔軟に対応していく力も必要と言えます。
■人の力を借りて仕事を進めることができる人
仕事のできる人が管理職に向いていると考える人もいるかもしれませんが、一概にはそうとは言えません。仕事ができる人の中には、自分ですべてを背負いこみ、業務でパンパンになる人もいますが、そうではなく、人の力を借りてうまく仕事を進めることも重要です。仕事が順調に進むばかりでなく、任せたスタッフの成長にもつながります。
スタッフ一人ひとりの適性を見抜いて、それに適した仕事を割り当てられる人、スタッフのキャパの限度を理解し、限界になる前にフォローできる人も管理職に向いています。部下のサポートも管理職の大事な仕事のひとつ。自信がなさそうなスタッフに言葉をかけたり褒めたりすることで、意欲を引き出すこともできるでしょう。
■会社の理念を理解し、具体化できる人
会社や施設、事業所には、理念やビジョンがあります。いくら素晴らしい理念だとしても、スタッフが理念を理解しておらず、バラバラな考え方を持っていたとしたら十分な成果を出すことはできません。
そのために必要となるのが、管理職が理念をしっかりと理解していること。そういった意味では、会社の理念に共感し、それを実現していきたいと考えられる人は、管理職向きと考えられます。
会社が思い描くビジョンや戦略を、スタッフにかみ砕いて伝え、どのように実現していくか、長期計画を立てて実行していく力も試されます。理念を組織に浸透させるためには、時間を要することもあるため、ねばり強さも必要です。
■分析力がある人
介護の仕事に限らず、管理職は分析力がある人に向いています。「生産性をあげて売上を伸ばし、利益を出す」「落ちているチーム力を上げる」「利用者と家族が納得のいくケアプランを作成する」といったことを実現するためには、必要な情報を収集した上で冷静に分析する力が大切だからです。
情報を集めるだけでなく、その膨大な情報な中から必要なものをピックアップするセンスも必要。選択した情報を、これまでの結果や現状と照らし合わせ、よりよい結果を生むことができるように分析し、道筋を作ります。
長く介護の現場で働いていると、強い思い入れや先入観も出てくるかもしれませんが、そうした要素に左右されず、データや情報を客観的に見極められる人も管理職に向いていると言えるでしょう。
長い間、介護職に就いていた人は、その経験を活かして管理職に挑戦したい人もいるかもしれません。しかし現場で動く側と、管理する側とでは役割や視点が変わってきます。
介護の管理職に向いていない人とは、どのような人なのでしょうか。
■お金や資金について考えたくない人
介護施設や事業所の管理職になった以上、利益や資金について考えないわけにはいきません。利益を出すためには売上を伸ばす必要もあり、施設や事業所の存続のためには、長期的な着眼点で売上計画を練ることも大切になってきます。
利用者の満足度を維持しながらも、効率的に人員を配置し人件費を抑えたり、売上を伸ばすための新しいサービスを考えるなど、コストの削減、積極的な営業活動に取り組むことも管理職の大事な仕事です。そういった意味では、ボランティア志向が強い人や、お金や資金について考えたくない人は管理職には向いていないと言えます。
介護保険制度のお金の流れを十分に理解した上で、自分だったら利益を出すためにどう動くかなど、経営者的な視点で考えるようにしましょう。
■人にお願いせず、自分でやってしまう人
人に指示するよりも、自分でやる方が早いからと、あえて仕事を周囲にふらない人は、介護の管理職に向いていないかもしれません。すべて自分でやってしまうと、人材が育たないばかりか、「仕事を任せてもらえないということは、自分は信頼されていないのでは」とスタッフの意欲の低下を招く可能性もあります。介護はチームワークが大切で共有すべきことも多いため、自分だけの判断だけで突っ走るのは避けたほうがいいでしょう。
現場が好きな管理職の中には、本来現場のスタッフがするべき仕事を、自分がやってしまうこともあるようです。現場に積極的に飛び込む姿勢は、スタッフからも評価されることも多いのですが、仕事の流れを乱す行動は現場の混乱を招くことにもつながります。
人に仕事を任せ、必要とあれば手助けやアドバイスをすること、現場に出る際は周囲との調和を考えた行動をすることが大事と言えそうです。
■責任ある仕事には興味がない人
大きなお金も動き、大切な家族の命を預かる介護の現場をまとめる管理職は責任も伴います。介護の現場は常に状況が変わるため、その状況の変化に応じた適切な判断を下さなければなりません。緊急時の対応はもちろん、利用者間のトラブル、家族からのクレーム対応、ケアプランの変更、スタッフの採用など、毎日、決断の連続といっていいでしょう。
そういった自分の判断力や責任が問われる仕事を避けたい人や、言われた業務だけこなしたいという受け身の人には、介護の管理職は向いていないかもしれません。
それでも、今後は管理職として頑張ってみたいと考えている場合、いきなり管理職としてではなく、チームリーダーから挑戦していくのがオススメです。小さい組織の中で、決断力やリーダーシップを磨くといいでしょう。
■優しすぎる、人の意見を聞きすぎてしまう人
スタッフからの要望を聞き入れて、労働環境を改善することも管理職には大切なことです。
しかし、一方的にその意見を聞き入れてしまうと、労働環境や仕事内容にアンバランスが生じ、スタッフ間で格差が生まれてしまうこともあります。働きやすい環境を作るつもりが、結果的にスタッフの関係性がギクシャクしてしまうことにつながりかねません。
また、利用者さんやその家族からの意見を聞くのも大変重要なことですが、感情に流されてしまったり、「前の施設ではこうだった」といったことで押し切られてしまうのも考えものです。
利用者さんや家族の気持ちに寄り添うことは、介護に携わる人間として大切な心構えではありますが、施設の理念やスタッフの数に制限がある限り、線引きは重要。できることとできないことをしっかりと見極め、両者のうまい落としどころを考え、納得してもらうことが大切と言えます。
介護現場における管理職に求められるスキルや知識、向いている人などについて解説しました。
ひとことで管理職といっても、事業所や施設の規模によってマネジメントする人数や仕事内容も大きく変わります。デスクワークが主になる管理職もいれば、プレイングマネジャーとして現場でも活躍する人もいるでしょう。
しかし共通しているのは、「スタッフの話を聞きつつまとめる力」「状況を分析して自分で考えて動く力や決断力」「売上や利益など経営者目線でとらえる力」です。
これから管理職を目指していく人や、管理職への昇進が決まった人は、自分の性格や考え方のクセを一度振り返り、理想の管理職像を見つけてみてください。
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