■書名:『家族が選んだ「平穏死」』
■著者:長尾和宏/上村悦子
■発行元:祥伝社
■発行年月:平成25年7月30日
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穏やかで自然な「平穏死」を選択した患者と家族の物語
「平穏死(へいおんし)」。この言葉を初めて聞く人も多いのではないだろうか。
著者の長尾医師は平穏死について、「生命の終わりに無理な延命治療を行わず、人間としての尊厳を保ちながら穏やかに旅立つこと」であると説明している。
老衰や認知症の終末期、末期がんなど、不治の状態に陥った患者が食べられなくなったとしても、人工的な栄養補給をせず、患者に自然な死を迎えさせる。
「栄養補給をすれば、もう少し長生きさせられるのに」と思いがちだが、無理に点滴や胃ろうなどで栄養を与えても、快方に向かうことはない。むしろ苦しむ時間が長くなるだけだと長尾医師は説く。余計な延命を施さなければ、終末期を迎えた人間は、眠るように穏やかに亡くなっていく。
本書は、この「平穏死」を望む患者や家族を医療の面で支える長尾医師による解説と、在宅で看取りを決めた家族の証言で構成されている。
抗がん剤の使用を止めさせ、病院から自宅での在宅療養に切り替えた家族、認知症の夫を引き取り、家で約10年もの在宅介護を行った妻、不信感から家族を病院から強行退院させ、自宅で看取ったケースなど、家族から見た「平穏死」の姿を紹介している。
長尾医師は「(最期に)何もしないことが、どんなに素晴らしいことか。延命治療をしないことが、実は延命になるばかりか、最大の緩和ケアになるのです」と語る。
しかし、現実にはすんなりと看取りを決意する家族は稀だ。多くが不安を抱き、これでいいのかと悩み、葛藤を繰り返しながら手探り状態で在宅介護を続けていく。
本書ではそのリアルな家族の姿も描かれている。在宅での介護は厳しいが、その結論は明快だ。「穏やかな死を迎えさせることができてよかった」「やりきったという達成感がある」「眠るような最期だった」と、大切な人の死を受け止めながら納得した姿には、清清しさを感じる。
<家族の言葉の中にこそ、平穏死の本質があると思う。大切な人の最期を前にした、気持ちの揺れ動きの中にこそ、平穏死の本質があり、また平穏死のノウハウが詰まっていると思う。(中略)本書を通じて、平穏死の思想を深めていただければ>
わずか40年ほど前までは、日本では当たり前であった「平穏死」。
病院で死を迎えることが普通となってしまった現在、在宅での穏やかな最期は難しいものとなっている。平穏死を選択した家族の声に耳を傾けると「幸せな逝き方」が見えてくるかもしれない。
<松原圭子>
著者プロフィール
長尾 和宏(ながお・かずひろ)さん
長尾クリニック院長。東京医科大学卒業後、大阪大学第二内科に入局。複数医師による365日年中無休の外来診療と24時間体制の在宅医療に従事した。「平穏死 10の条件」「胃ろうという選択、しない選択」など、多数の著書がある。
上村 悦子(うえむら・よしこ)さん
フリーライター。「中央公論」「婦人公論」などで、介護、女性、子どもの問題などをテーマに執筆を行っている。著書に「まじくる介護 つどい場さくらちゃん」など。