要介護者の“自立支援”は機能訓練だけ?
次期介護報酬改定に向けて、様々な議論が進んでいます。
2016年10月には、財務省が「財政制度等審議会 財政制度分科会」で、「機能訓練をせず、単なる“居場所”となっているデイサービスは減算すべき」という意見を提出しました。
わかりやすく自立支援につながっていないサービスは、どんどん介護保険での報酬評価を引き下げる、あるいははずしていく。軽度者の訪問介護による生活援助は介護保険外で、という意見と同じ路線ですね。
介護職の方には、納得できない意見だったかもしれません。
しかし、国の財布を預かる財務省は、とにかく削れるところはないか、目を皿のようにして探しているわけです。こうした提案が出てくること自体はやむを得ません。
介護保険は財源難から、重度化シフトが今後も加速していくのは避けられないのではないかと思います。
確かに、デイサービスが漫然と居てもらうだけの居場所提供であれば困ります。
しかし、自宅に引きこもっていた人が、家族などの粘り強い働きかけでデイを利用するようになる。デイで友人ができ、デイはその人にとって居心地のいい居場所となる。
それによって、生きる意欲、リハビリ意欲が高まり、要介護度が下がる、免疫力が高まるということもあるでしょう。そんな居場所となっているデイなら、自立支援につながっていると言えると思います。
手足を動かす機能訓練だけが、自立支援に資するサービスではありませんよね。
ただ問題は、こうした“心の自立支援”については、支援によって改善したというエビデンスを示すことも、改善を端的に数値化して示すこともなかなか難しいということです。
数字で様々なことを判断する財務省にとっては、おそらく理解しがたいことでしょう。それでも、財務省の要求を押し返していくには、何らかの形でそこを理解してもらう必要があります。
財務省を説得できるのは介護職自身かもしれない
そのために、もう一つあえて言いたい問題は、こうしたサービスの成果を、介護業界は十分発表してきただろうか、ということです。
介護保険制度が始まって丸17年たちます。しかし、事例で伝えていく質的研究にせよ、成果を数値化して統計的に分析する量的研究にせよ、まだ介護分野での蓄積は十分ではないように思います。
よい支援をしている事業所の取り組みを、講演などで聴く機会はあることでしょう。
しかし、どれだけいい取り組みを紹介した、いい講演であっても、その講演で財務省を動かすのは難しいと思います。
残念ながら、それを誰もが納得する形、つまり客観的な研究としてまとめて論文化しているケースはまだ多くありません。
しかし、客観的なデータとしてまとめて世に出していかなくては、数字で判断する人たちを動かすのはなかなか難しいのです。
研究をするのは、研究者の仕事。そう思っている介護職の方も多いかもしれません。
しかし、医師や看護師、理学療法士など医療職には、働きながら大学院に籍を置いたりし、研究と臨床に並行して取り組んでいる人がたくさんいます。
介護職ではなかなか難しいかもしれませんが、現場を知っているからこその論文が、新しい知見として注目を集めることもあります。
介護の仕事は、介護保険が始まってからどんどん進化しています。特に、認知症ケアなど、介護保険制度開始当初と比べると、驚くほど充実してきています。
そうしたことを広く知ってもらうためにも、介護職自らが研究にももっと取り組んでいけば、その積み重ねが、世の中を動かすことにつながっていくのではないかと思います。
<文:宮下公美子 (社会福祉士・臨床心理士・介護福祉ライター)>