毎回、介護にまつわる問題点やちょっと困った介護スタッフの珍行動、介護現場での珍事件などを紹介するこのコーナー。今週は、「介護施設の立地が……」という話題について紹介します。
「長年暮らした土地を離れたくない…」高齢者の本音
人間誰であれ、住み慣れた土地を離れたくはないもの。とりわけ高齢者となれば、いよいよその気持ちは強いはずだ。年老いた末、生活に援助が必要となれば、いずれは介護施設への入居も真剣に検討しなくてはならない。しかし家族から施設入りを勧められても、一度はこれを拒む高齢者も少なくないだろう。東京都K区に住むSさんは、父を施設に入居させようとしたものの、想定外のことで目論見が頓挫してしまったという。
Sさんの父は現在70代半ば。数年前に脳梗塞を患い、半身の自由が利かない。父の面倒はずっと母が見ていたが、その母が今年1月に急逝。そのためSさんは、父に一時的に施設に入ってもらうことを考え始めた。
ところが、下町のK区で生まれ育ち、ご近所付き合いなどにも積極的なSさんの父は、その提案を拒否。それでもSさんは「まずは見学だけ」と、何とかなだめすかし、下調べをしていた施設を見学に訪れた。が、そこに思わぬ落とし穴が仕掛けられていた。
施設には満足していたのに、なぜ入居が白紙に?
Sさんたちが訪れたのは、近年に新線が開通し、住宅開発が急ピッチで進む地域。近隣には大きな総合病院がある一方、緑も多く残されており、環境としては申し分ない場所だ。施設はオープンしてまだ5年程度しか経っておらず、館内はピカピカ。父も入居に前向きな姿勢を見せ始め、見学は終了した。
そこで父をまっすぐ自宅に送り届ければ良かったのだが、施設の人に「近所に大きな公園がある」と教えられ、そちらに向かおうとして“悲劇”は起きた。Sさんが施設を調べている時も、施設に向かう時も、施設を見学している時もまったく気が付かなかったのだが、施設からわずか50メートルほどの場所に斎場があったのだ。これを見た父は、「こんな所に入れるか!」と激昂。施設入りの話しは完全にご破算になってしまった。
介護施設で働く人に話を聞くと、入居当初は「早く自宅に帰りたい」と言っていた人も、ほんの1か月も経てば、ほとんどの人は「冷暖房が効いて、話し相手もいる施設の方が良い」と言うそうだ。Sさんが見学した施設も、職員の対応は丁寧だったうえ、清潔感に溢れていたという。
しかし近隣に建つ斎場を見て激昂した父に対し、Sさんは返す言葉が浮かばず、話は完全に白紙に。帰宅後にSさんが改めて施設について調べたところ、その施設は斎場ができた後に建てられており、Sさんは「なぜよりによってあの場所に……」と、今も不思議に思っているそうだ。