2015年07月06日

東京圏から地方へ高齢者の移住、ホントに実現する？　介護家族の反応は？ | 「介護求人ナビ　介護転職お役立ち情報」

毎回、介護にまつわる問題点やちょっと困った介護スタッフの珍行動、介護現場での珍事件などを紹介するこのコーナー。今週は、民間の有識者会議が提唱した「高齢者の地方移住」という話題について紹介します。

地方移住推進を提言した理由とは？

2015年6月はじめ、元総務大臣の増田寛也氏が座長を務める日本創成会議が、「東京圏の高齢者の地方移住促進」を提言し、大きな話題となった。今回の提言の背景を、一部紹介する。

・東京圏の介護重要が10年後（2025年）までに40～50％程度増加する
・東京圏の入院需要が、10年後までに20％以上増加する
・東京圏の医療介護施設や人材が不足する
・一方で地方では、10年後には総人口の減少が起こり始め、介護・医療の需要が減る
（＊東京圏とは、東京・神奈川・埼玉・千葉の1都3県を指す）

このような予測から、全国26都道府県の41の都市が、具体的な移住先の候補地としてあげられた。

日本創成会議は昨年5月、少子化と人口減少が止まらず存続が危ぶまれる896の「消滅可能性都市」を発表し、こちらも大きな話題となった。今回の発表に対しては、

「『施設が足りないから移住しろ』というのは乱暴だ」（舛添要一・東京都知事）
「試算そのものが荒っぽい推論で、乱暴な議論だ」（上田清司・埼玉県知事）

といった反発の声があがった。また“受け入れ先”に指定された地方の首長からも、

「都市部で高齢者の面倒を見きれないから単純に地方に行けば丸く収まるということではない」（泉田裕彦・新潟県知事）
「東京のお年寄りからすれば、現代版の姥捨て山にならないか。強い違和感を覚える」（中村時広・愛媛県知事）

との声があがっている。

嫌がる高齢の母を、無理に移住させたら…

介護のために地方移住するという選択肢は、現実的なのだろうか？　自身の親を移住させた経験を持つ60代の女性はこう語る。

「私の母親は90代の始めまで愛知県で一人暮らしをしていました。子どもは4人いますが、全員故郷を離れており、結局京都に嫁いだ私が住む家の近くの高齢者施設と契約しました。しかし母親がガンコに『ここ（愛知）を離れたくない』と言って大変でした」

90年以上にわたる人生を愛知で過ごしてきた母親は、「（愛知を）離れるなら死んだほうがマシ」というようなことまで口走るようになった。娘は、「イヤだったら帰ればいいから」「古い家よりも施設の方が、夏は涼しいし冬は温かいわよ」などと、言葉巧みに何とか母親を京都に移住させることに成功。しかし、無理強いがよくなかったのか、母親は入居後1年ほどで亡くなってしまった。「そんなことなら最期まで自宅にいさせてあげれば良かった」と後悔しているという。

一方、現在は都内の介護施設に入っている70代の男性は、故郷から離れることにまったく抵抗がないという。息子にあたる40代の男性が、その理由をこう語る。

「ウチの父は大病をし、胃ろうをしている関係で、要介護3の認定を受けており、3年ほど前から介護施設のお世話になっています。しかし23区内にあるその施設は、費用が高く、できればもう少し安い施設の方が家族にとってベスト。そこで父にその話をしたところ、二つ返事でOKでした」

息子いわく、父親は大の読書家で、「本さえあれば友人はいらない」というタイプ。そのため施設の他の入居者との交流は皆無。「息子や娘、孫が定期的に訪ねてくれるならば、どこでも構わない」と言っており、甲信越地方への移住を検討しているそうだ。

日本創成会議が挙げた受け入れ先は、北は旭川から南は宮古島まで、日本全国に散らばっている。東京圏からだと、一番近いところでも新潟県上越市と、かなりの距離がある。
前出の移住に抵抗がない父を持つ40代の男性でさえ、「やっぱり家族が会いにいける距離にある場所が、現実的ではないでしょうか」と、指摘。

将来、都市部の介護や医療が大幅に不足することはほぼ確定的。だからといって、「地方に移住」という提案が受け入れられるかどうかは、議論の余地がありそうだ。

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