特養、病院、人材教育など、介護に関わるさまざまな仕事を経験しているUさんの転職体験談です。
第1回では、無資格・未経験で特別養護老人ホーム(特養)へ転職したUさんが見た介護の現場の様子を語っていただきました。
◆介護人材教育 講師・デイサービス 介護職・登録ヘルパー→居宅ケアマネジャー→介護職員初任者研修 講師
U・Mさん(女性・50歳)
介護業界での経歴詳細
●特別養護老人ホーム(介護職・正社員)(勤務期間:5年3か月/月収約25万円+ボーナス約5か月分)
●療養型病院(介護職・パート)(勤務期間:2年/月収約18万円+ボーナス約1か月分)
●訪問介護事業所(介護職・パート)(勤務期間:4年/時給約1,000円)
●グループホーム(計画作成担当者・パート)(勤務期間:6年/時給約1,300円)
●介護人材教育(講師)、デイサービス(介護職・パート)、訪問介護事業所(登録ヘルパー)(勤務期間:5年/月収約13万円)
●居宅介護支援事業所(ケアマネジャー・正社員)(勤務期間:2年/月収約23万円+ボーナス約1か月分)
●介護教育研修(講師・正社員)(勤務期間:1年/月収約30万円)
介護職以外の仕事:事務職員、宝飾店技術者、飲食店店員など
保有資格:介護福祉士、介護支援専門員
家族構成:夫、長男(17歳)、長女(15歳)
【介護業界に就職】勤めていた会社が倒産して介護業界へ
「人の役に立つ仕事」=「福祉の仕事」がしたい!
短大の英語科を卒業し、メーカーの海外事業部門に就職しました。
税関を通す商品を送るための書類を作る仕事で、英語力を生かせるという点ではよかったのですが、面白みを感じるというところまではいかなくて。
その後、宝飾店に勤務していたのですが、突然、社長から倒産を言い渡されました。
倒産の1カ月半くらい前に知らされ、驚きました。「次の仕事は自分で探してほしい」と言われましたが、ほかに思いつくところもなく、ハローワークに足を運びました。
その時、ハローワークで探したのは、福祉の仕事でした。
幼い頃通っていた小学校では、障害のある子供との教室での交流などが盛んでしたし、障害者スポーツに触れる機会も多かった。
事務職よりも現場職のほうが向いていると思っていましたし、何か人の役に立つ仕事がしたいと思ったのです。
無資格OKの特別養護老人ホームへ転職
ハローワークにあった募集は「大卒、社会福祉主事資格保有」が条件の障害者施設の相談員の仕事。
私は何も資格を持っていないので、応募することができませんでした。
ところが、ちょうどそんな話をしている最中に、ファクスで特別養護老人ホーム(特養)の求人が入ってきたのです。
そこは、地元では珍しい、認知症専門の特養。
当時、私は認知症についてまったく知識がありませんでしたが、職員の募集に、「介護の資格は不要」と書いてありました。
「資格は働いている間に取れば大丈夫です」と言われ、働きながら資格が取れることの魅力も感じて、すぐに面接に行き、採用になりました。
【はじめての介護職】職員主導のケアをする特別養護老人ホーム
利用者さんの意思は無視?!介護現場に驚き
今は特養の施設基準ははっきりしていますが、かつてはもっとあいまいでした。
私が就職した特養では、4人部屋にベッドが6つ。
そこにポータブルトイレを置き、トイレの仕切りもろくにないような環境でした。
介護自体も強引で、利用者さんの意思を尊重しているようには思えませんでした。
時間になると声かけもせずにパンツを脱がせ、トイレに座らせるというような感じでした。
お風呂も、上司に「あの人連れてきて」と言われると、意向も聞かずに利用者さんの手を引っ張って、いやだといっても引きずっていく
早く食べさせたいから、おかゆにデザートのヨーグルトをかけて口に突っ込み、「いやなら食べなくていい」と言い放つ。
主任や相談員の多くはそんな感じだったのです。
まるで軍隊みたい……。
そんな介護現場に驚き、ためらいました。
介護という仕事自体は面白いのに……
入職するとすぐ、そんな仕事を「あれやって」「これやって」と言われ、ぐずぐずしていると上司に怒られ、毎日焦り、戸惑う日々でした。
ただ、介護の仕事自体は面白いと感じていました。
当初は、何の資格も知識も経験もなかったのですが、仕事自体に拒否感はまったくなく、むしろ利用者さんとのふれあい、ケアをすることに温かみを感じて心がはずみました。
はじめての排泄ケア、入浴介助などもまったく苦にならない。
この仕事、向いているんだな、という実感がありました。
「やって」と言われたことがすぐにできないもどかしさ、悔しさはあり、最初の数ヶ月は本当に必死でしたが、なんとかついていくことができるようになり、安堵したことをよく覚えています。
しかし、だからといって、上から目線で利用者さんに接していいのか、と疑問でした。
入浴させてやる、排泄介助してやると上から目線で、ただ利用者さんを介護職の時間的都合で連れ回しているだけのように見えてしまったのです。
【介護の仕事の面白さ】高齢でも認知症でもいきいき暮らせる
いくら介護業界にはじめて来たといっても、これを「あたりまえ」とは思えませんでした。
しかし、上司とのキャリアの差がありすぎて、口を出せません。
職場には、介護の専門学校を卒業した職員もかなりいました。
この人たちも、主任や相談員にさからうことをためらっていましたが、エスカレートする介護のひどさをなんとか食い止めようと、動き始めました。
その特養には、偶然にも吹奏楽をやっている職員が多く、楽器も持っていました。
そこで、「利用者さんの吹奏楽団を作ろう」ということになったのです。
音楽をやり始めてから、利用者さんたちはガラリと変わりました。
楽器を演奏している間はとても楽しそうで、表情もいきいきとしている。
認知症があっても、知っている曲であれば、音楽を奏でるということにはそれほど支障がなく、みんななじみの曲を演奏することを、心底楽しんでいました。
市の敬老の会に出席したときも、利用者さんが自ら舞台に上がり演奏すると、拍手喝采。
そのときの利用者さんたちのうれしそうで誇らしげな顔は、今も忘れられません。
認知症の方はさまざまなことに拒否感を持ち、お風呂に誘っても「絶対に行かない」と大声を上げることがあります。
そういう中で、上司たちは強引な介護を身につけてしまったのですが、気持ちに寄り添って介護をすれば、自然にお風呂に向かうことも多い。
さらに、好きな音楽に向かうときはこんなに楽しそうにするのだとはじめて知り、
認知症介護の面白さ、奥深さも体験しました。
【退職のきっかけ】利用者さんにも職員にもきつく当たる主任からの暴言
介護の仕事が楽しいと思えましたが、主任の乱暴な介護は変わることがありませんでした。
自分が腰が痛いからと、しっかりと利用者さんを支えることなく、放り出すようにして移乗させたり、ベッドに投げるようにしたり。
「いいのよ、ここに来ていなかったら生きていないんだから」とまで言っていたのです。
当時、まだ認知症は世間にもあまり理解されておらず、家でも「わけのわからないおばあちゃん」ということでネグレクトされていたり、暴言を吐かれていたりしたのです。
ここでも主任がひどい暴言を吐いていましたが、利用者さんは「自分のせいだ」と受け入れて暮らしていました。
そんな扱いを受ける利用者さんが気の毒で、何か少しでも進言しようものなら、部下たちは徹底的に罵倒される。
私も標的になりがちで、「ろくに仕事もできないくせに。給料分の仕事をしろ!」となじられることが数多くありました。
休憩時間も、みんなの前で罵倒され、そのうち胃が痛くなり、十二指腸潰瘍になってしまったのです。
当時、父の具合が悪く、父の介護も必要になったこともあり、思い切って退職することにしました。
あと少しでケアマネジャーの資格を得られるだけの勤続年数でしたが、当時、辞めないという選択肢はもう、考えられませんでした。
<三輪 泉(ライター・社会福祉士)>
次回は療養型病院、訪問介護を経て、認知症グループホームで本格的に認知症の方と向き合うUさんの転職経験をお伝えします。
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