介護業界でがんばる人たちの転職体験をお届けするこのコーナー。
有料老人ホームを辞めてから小規模デイサービスへ転職したT・Kさんの体験談を、全4回の連載で掲載します。
第2回では、有料老人ホームで介護職として働きながらビジネススクールで学んだ経営に関する知識や、転職のきっかけとなった介護への思いをお聞きしました。
◆有料老人ホーム(正職員)→有料老人ホーム、訪問介護事業所、小規模デイサービス、経営コンサルティング会社(パート)→小規模デイサービス(正職員)
T・Kさん(女性・26歳)
介護業界での経歴詳細
●有料老人ホーム(正職員)(勤務期間:2年2か月/月収約30万円+ボーナス1か月程度)
●有料老人ホーム、訪問介護事業所、小規模デイサービス、経営コンサルティング会社(すべてパート)(勤務期間:1年3か月/時給1,050円~1,500円)
●小規模デイサービス(勤務期間:6か月/月収約30万円)
保有資格:介護福祉士
家族構成:本人のみ(デイサービス施設の2階に居候)
*T・Kさんの「転職 成功・失敗 体験談」…
1回目(前回)はこちら
【介護現場の課題は?】リーダーに必要な資質はどこで身につけるか
リーダーや施設長になるための研修がない!?
介護現場の問題は、介護報酬の仕組みが悪いなど制度の問題にされがちですし、業界の全体の条件が悪いから人手不足になる、と考えられがちです。
でも、そうではなくて、企業のあり方にも問題があるのではないかと思うのです。
私の場合は、最初に就職したのが大手の企業で、会社の福利厚生はそれなりに整っていましたが、上層部に介護の知識や経験がないこと、施設長や現場リーダーへの適切な研修などがないということに、課題を感じていました。
現場では、ケアのしかたがよい人や、ある程度の経験年数がある人が現場リーダーになり、施設長になることが多く感じられます。
けれど、現場のケアがいいという長所は、はたしてリーダーや施設長の資質に直結しているのかというとそうとは限らないと思います。
上に立つ者は、上に立つ者としての資質が必要。
その「本当に必要な資質」を、企業が研修や日頃のOJTなどで教える機会が薄いのを感じていました。
ビジネススクールで「リーダー」の本質を学んで介護現場に活かしたい
『自分は「施設長候補」なのだから、施設長たるべき資質を身につけたい。
それには、現場をまとめる力だけでなく、ビジネスの視点を持って、現場をよりよいビジネス環境に持って行く力も、求められるべきだ』と思いました。
課題を論理的に解決していき、数字でも達成していく必要があると考え、そうした知識や技術を実際に身につけられる質の高いビジネススクールに行きたいと強く思い始めたのです。
そこで、介護分野に特化したビジネススクールに通うことにしました。
実際に受けてみると、中身の濃い授業に魅了され、厳しい勉強がたまらなくおもしろく感じました。
【職場での取り組み】ビジネススクールでの学びを活かす!
介護施設の運営をコストで考える
ビジネススクールで学ぶと、今自分が勤務している企業の課題が次々に見えてきました。
まず、基本的なことですが、「利益を上げなければ」と言いながら、コストダウンがうまくできていなかったんです。
たとえば、ストックルームがごちゃごちゃで、ペーパー類やオムツなどが多めにストックされている。
棚をきちんと整理し、どれぐらい消費しているかの記録をしっかりつければ、ストック分を大幅に減らせます。
利用の量も適切になるため、これらのコストが大幅に減るのです。
そこで、在庫スペースを半分にすべく、整理しようと、上司に提案しました。
在庫を整理した結果、最初の2カ月は新規の発注は不要になり、以後も発注数が少なくなったので、半年でこれらのコストを30%もダウンさせることができたのです。
短期間で目に見えて結果が出たので、上司にとても評価されました。
介護理念の共有は難しい…
ただ、こうした物品のコストはすぐに結果が出ますが、介護を作業と考えている人に利用者さんの気持ちをくんで行動し、自立支援することを実践してもらうべき、という課題の解決については、遠い道のりでした。
企業としての大きな行動目標や理念がない中、こうした具体的に示しにくい行動について職員に説得するのは、非常に難しい。
特に、現場職員の多くは自分よりキャリアがあるわけで、入社2年目の私が、先輩を立てながら、真摯にやわらかく伝えたつもりでも、なかなか聞いてもらえないというのが現実でした。
【介護業界への疑問】介護業界では改革は難しいの…?
リーダーになっても給料は頭打ち
また、給料についても、課題に感じていました。
私が勤務していた会社は介護事業会社としては大手で、待遇は介護業界の中ではよいほうだと言われていました。
大卒は、入社3年目で年収400万円。
ただ、どれだけがんばっても、現場リーダー職は600万円で頭打ち。
私の将来も見えてしまっていました。
でも、現場介護職の多くは、言われたことをこなすだけというスタンスで、それ以上に何かを考えたり改革したりしようという姿勢は見られなかったので、それも当然だと思いました。
介護は肉体労働?
介護職の中には、いろいろな仕事で就職を試みたけれどうまくいかなくて、「介護業界しか雇ってもらえなかった」という人もいます。
そして、介護は「作業」と考える人が多く、そうなれば介護は肉体労働です。
給料が高い人は、何かを「生み出す」仕事をしている。
肉体労働で高い賃金を得ようとしても難しい。
それはIT業界でもメーカーでも、介護業界でも同じはず。
でも、新しいことを生み出そうにも、なかなかその発端を見い出しにくいですし、見い出しても実行できない環境にあると、あきらめてしまいます。
業界全体で給料が安く、一定程度で給料が頭打ちになる理由も明白ですよね。
【仕事への熱意】私は介護業界でトップを目指したい
でも、私は介護業界で、何かを生み出したいと、強く思うようになりました。
人がやっていないこと、やれないとあきらめていることをやれば、自分の立ち位置も変わるし、業界を変えることができるのではないかと思ったのです。
ビジネススクールでは、「今の業界で上昇することの価値」も学びました。
たとえば、最先端企業に入社して、トップに躍り出ることは容易ではありません。
でも、多くの人が「作業」以上のことをやらない業界では、上昇志向や論理性、行動力を持って仕事に立ち向かえば、早い期間で上昇していく可能性がある。
ボトムアップすることが難しいのであれば、志の高い人、やれる人がやるしかないし、自分はそれができると信じています。
だから介護業界でがんばっていこうと、学んだからこそ強く思ったのです。
【転職のきっかけ】理想は「活気ある生活を取り戻すための介護」
スクールで学んだこと「ひとつに特化したビジネス」
ビジネススクールで学んだことの中で、自分が深く共感したのは、
「ビジネスをやるならどこかひとつに特化したほうがいい」ということ。
たとえば宿泊業界でいえば、ホテルを経営したら、その中でのシェア争いのために価格競争になったりサービス競争になったりします。
けれど、民泊で「こういうタイプの人には最適」という特徴を打ち出せば、いちいち高い広告宣伝費を払って「うちのホテルはこうですよ」といわなくても、理解してくれる人、理念に合っている人は泊まってくれる。
資本が小さいなら、このやり方がよいと思えるのです。
この会社は「高齢化社会」を解決するためのものなの?
一方、自分が所属していた組織は「総合的な介護事業を展開」する企業。
何かに特化する企業とは対極にありました。
そして、勤務していた現場は、それなりに高級な有料老人ホームで、入居していたのは富裕層の人たち。
高齢化社会という社会問題の解決をしたいと思って入社しましたが、目の前にいる高齢者の方々は恵まれていて、私の解決を待っているわけではないと思ったのです。
それより、私は高齢者がマイナスに感じていることをプラスに転じる仕事がしたい。
裕福な80代、90代の方よりも、支援があれば活気ある生活が取り戻せるような高齢者の方のために何か生み出したほうがいいのではないか、という思いもわいてきました。
入社3年目を迎え、そんな思いがどんどん強くなってきた頃、私は転職を考えるようになりました。
<三輪 泉(ライター・社会福祉士)>
次回は、有料老人ホームの正職員としての仕事を辞め、パート勤務で理想の介護を見つけるまでのTさんの働き方をお伝えします。
次回「私が介護の未来を作りたい!私の仕事と学びと投資~転職体験Tさん3」は、5月27日に公開予定です。
*T・Kさんの「転職 成功・失敗 体験談」…
1回目(前回)はこちら
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