近年、言葉や聴覚に困難を抱える小児に対して、早期からの言語聴覚療法が有効と考えられており、小児領域における言語聴覚士の需要が高まっています。この記事では、小児領域における言語聴覚士の役割や仕事内容、小児領域に関われる職場について解説します。
1 小児領域で働く言語聴覚士は少ない?
2 小児領域における言語聴覚士の役割
3 小児領域で働く言語聴覚士の仕事内容
4 小児に関わる職場
5 小児領域における言語聴覚士の今後の需要は?
6 言語聴覚士は小児のリハビリテーションで必要な職業です
言語聴覚士は、主に言語を用いたコミュニケーションに問題を抱えている方を支援する専門職です。支援の対象は小児から高齢者まで幅広いですが、小児領域に携わる言語聴覚士は少ないのが現状です。
言語聴覚士は1997年に国家資格として制定され、言語聴覚士になるためには国家試験に合格して厚生労働大臣から免許を受けなければなりません。有資格者数は2024年3月の時点で約42,000人です。
ただし、日本言語聴覚士協会の調査によると、言語聴覚士のうち、小児言語・認知などの小児領域に携わる人はわずか4,625人しかいません。
近年、言葉や聴覚に困難を抱える小児に対して、早期に言語聴覚療法をすることが有効であると言われるようになりました。
言語聴覚士の役割は、言葉や聴覚に困難を抱える小児に対しリハビリテーションを行い、学校や家庭などにおける日常生活でのコミュニケーションを円滑に行えるようサポートすることです。
また、保護者に対して家庭でのかかわり方や環境づくりについてアドバイスすることも重要な役割です。
小児領域で働く言語聴覚士の主な仕事内容は下記の通りです。
小児領域の言語聴覚療法の対象年齢はおよそ2歳ごろから15歳くらいまでで、発達状況や症状に合わせて訓練が実施されます。
言語聴覚士は下記の症状を持つ小児に対し、話す訓練を実施します。
<吃音(きつおん)>
言葉の最初を繰り返す、引き延ばす、つまって声が出ない、言葉が滑らかに出てこない
<学習障害>
学習において、特定分野(読む・書く・聞く・計算)が努力不足では説明できないほど困難を伴う
<構音障害>
言葉を理解しているものの、発音がうまくできない
<小児失語症>
言語獲得後(2歳以上)に脳血管障害や脳炎等で大脳の言語中枢が損傷を受けて発症する
<言語発達遅延>
発語がない、言葉の理解が遅れている
実際の訓練は発達段階や発音、聴力の実態に合わせて行います。
たとえば6歳未満の幼児であれば、明るい自然な声を引き出すことを重視し、口真似による発音指導や発音器官の訓練をとおして単音の発音練習をします。
10歳前後の児童であれば単語をわかりやすく発声するために、母音の安定や子音の発声の要領を得ることが大切です。日常生活のなかで誤音矯正をしながら、明瞭に発音できるように訓練します。
言語聴覚士は難聴により聞き取りが難しい小児に対し、補聴器を活用しながら聞く訓練をします。
子どもの聴覚は周囲の情報と音の関係の理解によって発達していきます。そのため、椅子取りゲームや音当てクイズなどの遊びを通して周囲の情報と音の関係を理解させるのが大切です。遊びのなかで聞き分けや聞こえやすい・聞こえにくい音や言葉を説明することで、意欲的な学習につなげます。
また、補聴器の扱い方を指導するのも言語聴覚士の役割です。
言語聴覚士は脳性麻痺や口唇口蓋裂、ダウン症児など、嚥下(えんげ)や咀嚼(そしゃく)に器質的・機能的な障害を抱える小児に対し、食べる訓練を実施します。
嚥下訓練に加えて、食事姿勢の指導や食具の選定を行い、食事がしやすくなるようサポートします。
保護者への支援も小児領域における言語聴覚士の重要な役割です。
保護者のなかには、言語や聴覚に障害を抱える子どもとのコミュニケーションの取り方に悩む方も多いです。
子どもの障害の現状や今後伸びる可能性のある部分についてわかりやすく説明し、家庭でのかかわり方や環境づくりについてアドバイスします。
言語聴覚士として小児に関われる職場には以下のようなものがあります。
ここでは、小児に関われる職場の特徴と業務内容について解説します。
特別支援学校とは、心身に障害がある児童を対象にした教育機関です。
特別支援学校で教員として働くためには、言語聴覚士の資格だけでなく、教員免許と特別支援学校教諭の免許が必要になります。
特別支援学校で働く言語聴覚士には、言語聴覚機能の向上をサポートすることはもちろん、教育者としての役割も求められます。
抱えている障害を改善するだけでなく、障害を抱えながらも周囲の人とコミュニケーションをとる方法を教育するのも言語聴覚士の仕事です。
小児科クリニックは、かかりつけ医として小児科領域全般を診察するクリニックです。
乳幼児健診や感染症の治療、予防接種などの一般的な診療はもちろん、発達外来を設置して言葉や聴覚の訓練に力を入れているクリニックもあります。
小児科クリニックでは、言語・コミュニケーション障害、嚥下障害、難聴など幅広い障害に対応しており、地域の療育センターや幼稚園などとの連携も求められます。
小児科クリニックの言語聴覚士には、個別のリハビリテーションなどを通して機能獲得や生活能力の向上をサポートする役割があります。
地域の基幹病院となる総合病院は、受診するためには紹介状が必要です。
そのため、小児科のある病院には乳幼児健診で発達の遅れを指摘された小児や地域のクリニックで精密検査が必要と判断された小児が紹介されてきます。
言語聴覚士の役割は、小児の障害をスクリーニングして療育やリハビリテーションの必要性を判断し、実際にリハビリテーションを実施することです。また、保護者へスクリーニング結果や今後の見通しを説明することも求められます。
児童発達支援センターとは、障害のある未就学の子どもたちが定期的に通う施設です。言語聴覚士は自立するのに必要な技能や知識、日常生活に必要な基本動作、集団生活に順応していくためのコミュニケーションを指導します。
また、児童発達支援センターは地域の障害児やその家族への援助・助言を合わせて行う地域の中核的な療育支援施設と位置づけられています。
言語聴覚士は子どもの抱える問題点や性格、家庭環境等に合わせた訓練や家族へのサポートも求められます。
放課後等デイサービスは障害のある児童(小・中・高校生)が放課後や長期休暇中に通う施設です。
発達障害を抱えた子どもたちのなかには、言語発達や吃音などに悩む子どもも少なくありません。言語聴覚士はそういった子どもたちに対して専門的な療育を行うことが求められます。
放課後等デイサービスは、6歳~18歳までと対象となる年齢が幅広いので、子どもの成長に合わせて長期的に支援を行っていく点が特徴的です。
>>放課後等デイサービスとは?施設の特徴について詳しくはこちら<<
小児領域における言語聴覚士の需要は増加傾向です。
2024年3月時点の言語聴覚士の有資格者数は約42,000人ですが、小児領域に携わる言語聴覚士は4,625人しかいません。
一方で、視覚・聴覚障害などにより特別支援学校へ通う小児は年々増えてきています。
文部科学省のデータによると、令和4年度に聴覚障害により特別支援学校に通学している小児は約7,900人です。
特別支援学校だけに注目してみても小児の数に対して言語聴覚士の数が少ないことがわかります。
つまり、小児領域における言語聴覚士の需要は、今後ますます増加していくと考えられます。
言語聴覚士は、言葉によるコミュニケーションに問題を抱えている方を支援する専門職です。
近年、言葉や聴覚に障害がある小児に対して、早期に言語聴覚療法を行うことが有効であるという考え方が主流になっており、小児領域における言語聴覚士の需要が高まっています。しかし、小児領域に携わる言語聴覚士はまだまだ少ないのが現状です。
小児領域に関われる職場には、小児科のある病院や小児科クリニックといった医療機関のほか、特別支援学校や発達支援センター、放課後等デイサービスなどがあります。
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