お話を伺った介護士さん
Eさん(50代前半・男性)
■どんな仕事をしていますか?
有料老人ホームでフロアリーダーをしています。
フロアの職員のとりまとめ、介護職員として食事介助や排泄介助、入浴介助をするほか、事故対策の施設内会議なども毎日行います。
■仕事のスケジュールを教えてください。
<1日のスケジュール>
8:00 食事の配膳、服薬介助、入浴のバイタル
9:30 施設長、ケアマネジャーなどと施設内のヒヤリハットの振り返り
10:30 食堂で昼食の準備、食事介助、服薬手伝い、午後入浴の人の血圧測定
13:00 休憩
14:00 おやつの準備、レクの手伝い
14:30 おやつの配膳、昼食
15:30 排泄介助
16:30 夜勤の人に申し送り
17:00 退社
■以前はどんな仕事をしていましたか?
車を運転して荷物の配達をしていました。
その前に勤務していた人材会社が廃業することになり、仕事が急になくなってしまったので、個人事業主として配送品の運送を請負う仕事を始めました。
自分の車を日々運転して配達。荷物を配達し終わるまで帰れないので、労働時間はけっこう長かったです。
報酬をもらう中からガソリン代や消耗費などの経費も支払っていたので、月の額面は多いように見えても、経費を引き、就業時間で割ると、意外に安いな、と思っていました。
■介護職に転職したきっかけは?
運送の仕事を始めた頃、自分の父親が病気で倒れ、病院のお世話になりました。
暴れて看護師さんのことをひっかく、叩くなどするやっかいな患者でしたが、看護師さんは傷を受けながらも懸命に看護していて、申し訳なさを感じるとともに、「すごいな」と尊敬していたのです。
私自身、父親の介護にはほとほと苦労したので、少し介護を勉強しようと思いました。
今から看護の資格を取ることはできないけれど、ヘルパー2級(当時。現在の介護職員初任者研修にあたる)なら取れると思い、週末に集中して研修を受け、資格を取得しました。
運送を個人で請負う仕事も労働時間が長く大変だったこともあり、転職しようかと考えていたところ、今勤務している施設の親会社のホームページを見たのです。
その企業理念がいいと思い、グループ企業の中に介護事業があったので、「ヘルパー2級を生かして転職できるかな」と考え、応募しました。
受かる確信はなかったですが、受け入れてもらって、嬉しかったですね。
■介護職としての仕事に不安はありませんでしたか?
ヘルパー2級を取ったときから「自分は排泄介助ができるかな…」と不安でした。就職してからも、それが懸念材料でした。
■転職後、その不安は解消されましたか?
入職してすぐに、自分よりずっと若い職員に仕事を教えてもらったのですが、その人たちがとても気遣いが細かく、そして教え方もすばらしかったのです。
こういう人たちと仕事をするなら、排泄介助への抵抗感など小さな問題かな、と思えるようになり、実際に取り組むうち、1カ月程度で慣れました。
■転職する前に準備したことはありますか?
ヘルパー2級の資格があったから転職したようなものですね。
資格を持って就職活動ができるのは、少し自信になります。
また、勤務する介護事業のホームページがとても充実していたので、くまなく見ました。
■それはうまくいきましたか?
ホームページをよく見ることで、「有料老人ホームでの介護は、実際にこういうことをするのか」というシミュレーションができ、勤務に入るときにも、「ホームページに書いてあったあのことだ」と合点がいきました。
前情報の収集は大事だと思いました。特に、レクなどはやったことがなかったので、とても参考になりました。
■介護事業に転職してよかったことは何ですか?
いやもう、人生変わりましたね!
社会に対する見方も変わりましたし、介護そのものへの考え方も変わりました。
当初は認知症ケアがうまくいかなくて、排泄介助のときにいやがられてつねられたこともあります。
「なぜこんなにうまくいかないのだろう」と悩み、外部の勉強会や、同業の人との交流の場などに出かけて、ベテランの人の話なども聞きました。
認知症サポーター養成講座で資格も取りました。知識がつけば対応も上達します。
今まで認知症介護がうまくいかなかったのは、利用者さんの思いをきちんと汲み取って共感していなかったからだ、と気づきました。
利用者さんと気持ちが通じ合うようになるにつれ、悩みが少しずつ消えていきました。
「RUN伴(ラントモ)」という、認知症の人やそのサポーターたちがリレーで走るイベントがあるのですが、それも始めました。
そうした関係で地域の人たちともつながり、認知症の人たちやその家族とも懇意になってきました。
そこで、認知症の方や家族とお茶を飲んで話をする「認知症カフェ」を企画し、うちの事業所で始めています。
外で勉強してきたことを会社でも受け入れてくれて、とてもうれしいです。
■転職して大変だと思ったことは何ですか?
人の命を預かっているということです。
判断を間違うと、事故につながることがあります。最初はとても緊張しました。
けれど、最近は施設内のヒヤリハットの事例検討などを重ねて、事前に事故を防げる手立てもたくさん得ることができ、安全性が高まっています。
対策をみんなで考えて共有することが、利用者さんの命を守ることにつながる。そう考えると、日々の会議にも身が入ります。
■これまでの経験やスキルで転職後に役立ったものはありますか?
営業や飲食業にも携わってきましたので、チラシを渡して「RUN伴を一緒に走りませんか?」などと声をかけたり、認知症カフェにお誘いするのも苦になりません。
たくさんの方々と知り合い、話すうち、介護について社会的な問題意識も持つようになり、今は自治体の高齢者虐待の会議にも呼んでいただいています。
物怖じしない性格と対話の経験が役に立っていると思います。
■今後の目標や、やりたいことはありますか?
認知症カフェやRUN伴などの地域活動を若い世代が引き継いでくれるといいな、と思っています。
僕ももちろんやるのですが、持続可能にするためには若い力で広めてもらいたいと思っています。
また、私は職場と少し離れた郊外に住んでいるのですが、地元では畑仕事を通じて障害のある方の働く場の提供をしています。
そちらの活動も、地道に続けていき、「地域と福祉」の芽をあちこちで開かせて行けたら、と思っています。
社会福祉士、介護職員初任者研修、福祉住環境コーディネーター2級。
約30年前よりファッションや芸能、子育て、教育などを中心にライターとして活動。2012年、親の介護を機に社会福祉士国家資格を取得し、高齢者介護・医療・健康分野でのライターとしても活躍中。
現在は、法定成年後見人として支援が必要な方の財産管理や身上監護も行う。
介護、医療、教育、子育てなどのテーマを中心にWEB雑誌・書籍などの記事執筆を多数担当。
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