世界に名だたる高齢化国家である日本。その介護のしかたも、世界中から注目を浴びています。一方、北欧・スウェーデンの介護のすばらしさもよく知られるところ。それぞれどういう特徴があり、高齢者はどう感じているのか。
日本で有料老人ホームの施設長として勤務し、のちに医療・介護専門ライフコンサルタントとなった木村誠さんと、スウェーデンで介護職として働く中村有紀子さんが、スウェーデンの介護から学ぶべきことを4回に分けて語ります。
*スウェーデンの介護に学ぶ…1回目、2回目、3回目、4回目(最終回)はこちら
○●○ プロフィール ○●○
木村 誠さん(左)
医療・介護専門ライフコンサルタント。個人を対象とする資産運用・形成などの総合的なプランを設計、提案するファイナンシャルプランニングを実践。介護福祉士・介護支援専門員・ファイナンシャルプランニング技能士。全国ケア実践者ネットワークLinkチーム天晴れ代表(東京・練馬)。スウェーデンの介護施設視察や研修の経験も持つ。
中村 有紀子さん(右)
スウェーデン在住。スウェーデンの高齢者専用住宅の介護職(無資格)、通訳、翻訳家(スウェーデン語、ドイツ語)。日本の介護事業所のスウェーデン訪問に通訳として関わるうちに、介護の仕事に興味を持ち、高齢者住宅にパートタイムの介護職として勤務するようになって2年。当地と日本の介護の違いについて痛感する。
介護職ほど想像力と愛情が必要な仕事はない!
――木村さんと中村さんは、どのように知り合ったのですか?
木村 僕が有料老人ホームの施設長をしていたときに、研修でスウェーデンの介護について学ぶことになったんです。当地にも見学に行ったのですが、そのときの通訳が中村さんでした。
中村 当時の私は介護について専門的な知識があったわけではなく、「介護の研修で通訳を務める」ということで、短期間で情報を集め、勉強をして、木村さんたちの研修のお手伝いをしたのです。
スウェーデンの介護現場の見学に私も同行したのですが、本当に感銘を受けました。そこで働く介護職の方を見て、「こんなに想像力と愛情が必要な仕事もない、介護職ってすごい」と思ったのです。
その後、私のスウェーデン人のパートナーがシニア住宅(シニアハウスとも言う)の介護職として、非常勤で働くことになったんです。でも人手が足りないらしく、「ユキコもやってみない?」と紹介されて。
最初は「エッ!?」と思ったけれど、研修の同行をしたときに見学したホームや介護職の人たちのことが思い起こされて、数秒後には「やってみようか!」という気になったんです。
スウェーデンでは、誰もがしっかりと休暇をとるので、特に、春や夏はかなり人手不足になります。そこで、無資格の介護スタッフも必要とされるんですね。
私のパートナーも夏の臨時職員として仕事を始め、私は2015年の春からこの仕事を始めています。今では、通訳や翻訳を本業にし、依頼があるときには介護スタッフをするというように、2つ職業を持っている感じですね。
木村 スウェーデンでは在宅介護が中心ですよね。在宅で最期まで暮らすために、訪問介護などもとても充実しています。
日本の特養のような位置づけである、24時間介護の「特別な住居」もありますが、そこにたくさん人が住むと、財政を圧迫してしまいます。そのこともあって、「特別な住居」に至る前の住居形態を強化することで、費用を抑制しつつ、在宅での必要なケアを提供する仕組みが充実しているんですね。
エーデル改革という、福祉・医療に関する1992年の改革以来この方針は続いています。
そんな中で、55歳以上の自立した人を入居対象にしているのが、中村さんが働いているようなシニア住宅。
部分的にバリアフリー化されていますが、自立した人が対象で、民営の場合が多いため、規制を受けることがあまりありません。
日本のサービス付き高齢者向け住宅のようなものでしょうか。元気だけれど少しADL(日常生活動作)が落ちている55歳以上の人が、自分らしく過ごせるように、自宅と同様に訪問介護を受けているという感じです。
中村さんはその訪問介護を、非常勤で行っているということですね。
スウェーデンの介護職の中心はアンダーナース
中村さんの住んでいるVetlanda(ヴェートランダ)中心部の広場。この日は週に一度の市が立ち、いつも より賑やか
――中村さんは、介護職としてどんな仕事をしているのですか?
中村 シニア住宅で暮らしている利用者さんの部屋にうかがって、シャワーや食事、服薬など、生活に必要なことのサポートをしています。
入職したときには、所定の研修を受けました。時間はシニア住宅側のケアプランで決まっていて、この人には90分、あの人には60分という具合で、私たちはそのケアプランに従って、仕事をしています。
私が勤務するシニア住宅は自治体の運営なので、介護職の多くは自治体の職員です。その人手不足の部分を私のような無資格のパート職員が埋めている感じでしょうか。
最近は週に2、3回は勤務しています。
木村 シニア住宅では、アンダーナースが在宅ケアの専門職として訪問介護を担う割合が多いのです。
アンダーナースとは、看護師ではなく、簡単な医療の勉強を修めたスタッフのこと。医師や看護師の指示のもとで、一部の医療行為や傷の手当、配薬などを行うことが認められています。
無資格の介護スタッフは、医療行為は行いませんが、リフトの移乗などもやりますし、正規職員と何が違うのかといえば、有給休暇がないことぐらいかな、というのが現場の感覚かもしれませんね。
次回の対談では、スウェーデンでの介護職の働き方などについて語りあいます。
<三輪 泉(ライター・社会福祉士)>
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