税金が高いスウェーデン。いくら働いても手取り収入が少なければ、「貧しい」と感じてしまいそうですが、スウェーデン在住で介護職の中村有紀子さんは「そういう感覚はまったくない」と言います。
一方、収入はあっても不安感が強く、貯蓄に走りがちな日本。
何が違うのでしょうか?
第3回は税と保険について、中村さんと元施設長の医療・介護専門ライフコンサルタント・木村誠さんが話し合います。
*スウェーデンの介護に学ぶ…1回目、2回目、3回目、4回目(最終回)はこちら
○●○ プロフィール ○●○
木村 誠さん(左)
医療・介護専門ライフコンサルタント。個人を対象とする資産運用・形成などの総合的なプランを設計、提案するファイナンシャルプランニングを実践。介護福祉士・介護支援専門員・ファイナンシャルプランニング技能士。全国ケア実践者ネットワークLinkチーム天晴れ代表(東京・練馬)。スウェーデンの介護施設視察や研修の経験も持つ。
中村 有紀子さん(右)
スウェーデン在住。スウェーデンの高齢者専用住宅の介護職(無資格)、通訳、翻訳家(スウェーデン語、ドイツ語)。日本の介護事業所のスウェーデン訪問に通訳として関わるうちに、介護の仕事に興味を持ち、高齢者住宅にパートタイムの介護職として勤務するようになって2年。当地と日本の介護の違いについて痛感する。
介護保険はなく、税金ですべてまかなう
――木村さんは、ライフコンサルタントとして、スウェーデンの福祉と保険・税金との関係にはどのような印象を持っていますか?
木村 スウェーデンには保険がなく、介護・福祉はすべて税金でまかなっています。
日本は、「国民皆保険」で、健康保険(医療保険)や介護保険のお金をあらかじめ払い、その保険料をキープしておいて、国民全員で使うやり方をしていますよね。
こうした保険のシステムもいいのですが、少子高齢化が進むと、少ない若い世代で多くの高齢者を支えなくてはならず、難しい局面を迎えることもあります。
日本はまさに今そうした状況で、医療保険も介護保険も赤字です。そうなると、若い世代にしわよせがいってしまうことが、大きな問題です。
アメリカも公的保険がなく、福祉は税金でまかないます。でも、スウェーデンのように国が手厚く最期までみるというよりは、自己責任のような形で自分の人生を支える部分が多い。
スウェーデンは福祉が手厚いですから、その分税金は高くなるわけです。中村さんの自治体で、中村さんの場合は所得税が32%でしょう? 収入の多い人なら、国税所得税の累進課税(税金がかかる前の収入に応じて税率が変動する)で税率はもっと高いし、消費税は25%ですよね?
生活が大変そうですが、実際、中村さんは生活に厳しさを感じますか?
中村 私は通訳や翻訳の仕事もあるので、介護職として正規雇用はしてもらっていません。2つの仕事を持っていますが、金銭的な面で豊かといえば、そうでもないです。スウェーデン人のパートナーも非常勤の介護職なので、給与には恵まれていません。
介護の仕事の給与水準はもっと高くなくてはいけないと思いますし、そこは日本と同じかもしれません。
でも、つらいとか苦しいとか貧乏、みたいな感覚はないんですよね。豊かさの基準って、気持ちのゆとりだと思うんです。
東京にいると、それなりの給与をもらっていても、まだまだお金が足りない、というような感覚にとらわれますが、基本的な生活さえできれば、スウェーデンでは心豊かに暮らせます。
たしかに税金は高い。でもスウェーデンでは、食材への税金は12%と低水準です。
医療費も、ごく一般的な病気であれば、かかりつけ医にかかるのは安い。国の方針で、学校は大学まで授業料が無料です。逆に、お酒やたばこにかかる税金はとても高いのです。
つまり、生活に絶対に必要なものの税金は安く、最低限の医療は安く、教育費はかかりません。普通に無駄づかいしないで暮らしていけば、どんな家庭もそれほど貧しくなることはありません。
むしろ、将来に向けての安心感があります。教育費が無料なので、親の貧困の影響を子どもが受けにくいところもいいな、と思います。
木村 スウェーデンでは、介護を受ける場合も非常に安かった覚えがあります。
中村さんが勤務している「シニア住宅」も、最終的に入居する特養のような「特別な住宅」も、ごく普通の生活をしている人が入れますよね。
税金は「取られる」のではなく「支払う」
中村さんお気に入りの散歩道。夏は緑にあふれている
中村 それに、スウェーデンではそもそも所得格差があまり大きくなく、同じ仕事なら同じような賃金です。累進課税率も高く、高収入の人も手取り額が少なくなるので、とにかく格差が少ないんですね。
だから心がざわつかず、税金に対しても、積極的に支払う、という気持ちを持っていると思います。日本では税金を「取られる」という言い方をしますが、スウェーデン人は税金を「支払う」という感覚です。
払う税金は自分たちのために使われるのだ、という意識が強い。だから、やみくもに貯金しようという気持ちも強くない印象ですね。
木村 日本人は、将来の社会保障はどうなるのだろうと、先行きが不安だから、いくらお金があっても貯金する、みたいなところがあります。そういう不安がないだけ、スウェーデンでは幸せに思えるのかもしれませんね。
ただ、スウェーデンの人口は900万人、東京都よりも少ないですよね。その少ない人々が、広大な国土に散らばっている。
ゆったりと暮らせる点はいいですが、反面、都市は過密なぐらいのほうが、効率よく仕事ができると思いませんか?
中村 スウェーデンでは、その「効率」をとても強く意識していますね。木村さんが言うように、この国はもともと人の配置などを考えると効率が悪いわけです。人手不足も深刻です。
だからその分、効率よくやろうという意識は強いです。必要最小限の力で最大限の効果を出すことにかけては、スウェーデン人はすごいですよ、合理化のプロです(笑)。
仕事の割り振りなども、時間内できっちりとできるように、あらかじめかなりしっかり組まれている。そしてブレません。
私たち介護職も決められたプランどおりにきっちりやることを求められます。そして、こんなに綿密にスケジュールを組んでやっているんだから、サービスに多少の不便を感じるとしても、みんな少しずつガマンしようという空気がありますね。
木村 「豊かさ」というものは、収入の多さや、税金の高さを基準にするわけではないのですね。
次回・最終回は、介護に対する理念や死生観についてお話いただきます。
<三輪 泉(ライター・社会福祉士)>
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