住み慣れた自宅で暮らし、そのまま人生を終える。自宅での最期を望む人が増え、それが理想のように語られることが多いですよね。在宅で亡くなる人は、ここ数年、少しずつ増えています。在宅での看取りを、「家族に看取られた最期」とイメージしている人も多いと思います。しかし実は、「在宅で亡くなった人」には、誰にも看取られずに亡くなった「孤独死」と言われる人が含まれています。東京23区では、孤独死が10年前より約1000人増加。そして、孤独死の約6割が男性であることが明らかになりました(*)。
目的のない行動が苦手な男性は、定年後に孤立しがち
なぜ男性の孤独死が多いのでしょうか。
一般に、女性は子育てや日々の生活を通して、地域に様々な知人、友人とのコミュニティ、つまり“居場所”をつくるのが得意といわれています。年齢を重ねてもそうしたコミュニティを保てていれば、たとえ一人暮らしになっても孤独死に至ることは少ないと考えられます。
これに対して、特に都市部の男性の多くは、一日の大半を自宅から離れた勤務先で過ごしています。そのため、地域に知人、友人のコミュニティを持たない人が多いものです。そうした男性がそのまま定年を迎えると、“会社”というコミュニティから外れ、社会から切り離された生活になりがちです。定年後は、自分で努力して新たなコミュニティ、居場所をつくらなくてはならないからです。
これが男性にとっては、なかなか難しいといわれています。ビジネス社会で、目的を持って行動する生活を続けてきた男性は、達成感の乏しい目的に向かって動くことに慣れていません。つまり、ただ「地域住民の集まりで交流を深めましょう」といわれても、コミュニティや居場所づくりが目的では積極的に参加する気持ちになりにくい人が多いのです。
そのため、特に地域社会との窓口となっていた妻を亡くした男性は、自宅に閉じこもりがちになりやすいと言われています。一人で過ごす時間が長くなり、社会性が衰えると、ますます他の人との交流が難しくなります。結果、一人で最期を迎える人が出てしまうと考えられます。
男性は「交流」ではなく「活動」を目的として誘うべき
ではどうすればよいでしょうか。
男性に家から出てきてもらうには、達成感のある活動目標を設定して活動に誘うのも一つの方法です。たとえば、地域の防災を考える。地域の子どもの見守り活動をする。商店街の集客アップを考える。活動の成果が目に見えて、できれば、それが周囲から評価されるような目的を設定すれば、男性も積極的に参加しようという気持ちになりそうです。そうした活動を通して、地域に顔見知りを増やしてもらえばいいのです。
もちろん、目的はその人の興味や関心に合うもの、その人の持つ能力を発揮できるものであることが望ましいでしょう。そういう意味では、地域にいろいろな活動が用意されているほうが、参加しやすくなります。
しかしそうでなくても、人は期待され、頼りにされれば、それに応えようという気持ちが起こりやすいものです。「あなたを見込んで」「あなただから一緒にやってみたいのだ」と言われて、悪い気がする人はいません。男性には、そうして声をかけ、活動に誘っていくとよいのではないでしょうか。
ただ、いくら誘ってもどうしても交流を拒む人、活動に参加しようとしない人もいます。介護職や地域福祉の関係者には、そうした人になんとか自宅から出てきてもらおうと考える人が多いと思います。確かに、熱心に誘われることで重い腰を上げ、地域の活動に参加してよかった、と感じる人もいることでしょう。しかし中には、誘ってもらえるのはうれしいが、マイペースで暮らすことが好き、または人との密な交流は望まないという人もいます。
孤独死をなくしたい。近所の人が孤独死するのは耐えがたい。地域住民がそう考えたとしても、住民の「一人でいる自由」もまた、守られるべきです。介護職や地域福祉の関係者は、すべての人がつながること、地域に居場所を持つことが唯一絶対のゴールだと思い込まないことも大切です。「1人でいたい」という人のことは、その気持ちを理解した上で声をかけ、そっと見守っていけるとよいのではないでしょうか。
<文:宮下公美子 (社会福祉士・臨床心理士・介護福祉ライター)>
*高齢男性 地域でケア 孤独死予防へ接点づくり (日本経済新聞2016年7月20日)