介護保険からの「生活援助はずし」はいよいよ具体的に動くのか
次期介護保険改正で、軽度者の生活援助が介護保険から外れるかどうか。関心を持って見つめている方も多いことと思います。
これに関し、2018年10月9日に開催された財政制度等審議会財政制度分科会では、以下の2点が指摘されました。
(1) 軽度者(要支援、要介護1・2)は生活援助サービスの利用割合が大きいが、こうした生活支援に関わるサービス等は、国による一律の基準によるサービス提供よりも、地域の実情に応じた多様な主体によるサービス提供が望ましい。
(2) 平成27年度から要支援者に対する訪問・通所介護は、介護予防・日常生活支援総合事業※に移行を開始し、平成30年3月末までに全市町村が移行を完了。利用者の状態像や地域の実情に応じ、国による基準に基づく専門的なサービスだけでなく、基準を緩和したサービスや住民主体のサービスを実施することとなったが、まだ多くが移行前と同様の国による基準に基づくサービスの実施を中心としている。
(財政制度等審議会財政制度分科会 平成30年10月9日開催資料より引用)
※筆者注:「介護予防・日常生活支援総合事業」…市町村が主体となって提供する地域支援事業のひとつ。
その上で、下記のことが分科会での検討の論点として挙げられています。
「長期にわたり介護保険の給付の増加が見込まれることを踏まえれば、給付の更なる重点化・効率化を図っていく必要があり、軽度者のうち残された要介護1・2の者の生活援助サービス等についても地域支援事業への移行を具体的に検討していく必要がある」
(財政制度等審議会財政制度分科会 平成30年10月9日開催資料より引用)
つまり、財務省は今後、要介護1・2対象の生活援助サービスを、介護保険から市町村の介護予防・日常生活支援総合事業に移行する方向で動くということです。
いよいよ、介護保険からの「生活援助はずし」が本格化することになります。
「生活援助はずし」については、介護関係者からは圧倒的に反対の声が多いですよね。ひとり暮らしの男性など、訪問介護で生活援助サービスを受けられるから在宅生活を継続できているというケースもあります。
要介護2以下は全員、生活援助を受けられなくなると、立ち往生する人が出ないか、心配です。
介護現場では、要支援制度に疑問を持つ声も
ある訪問介護事業所の管理者は、財源不足への対応で生活援助の提供を辞めるのなら、要支援のサービス全体を廃止にする方がよいと言います。現状の要支援サービスは、自立支援につながりにくい上に、要支援認定を受けた人の中には、サービスが不要と思われる人が少なくないからです。
「要支援1で、週1回の訪問介護で食事を作るケアプランで、目的が『栄養管理』だと言うんです。ホームヘルパーが食事を作る日以外は、コンビニで食べたいものを買って食べているんですよ。週1回の訪問介護で栄養の管理なんてできるわけがない。無駄だと思います」
確かに、栄養状態をモニターする、という意味はあるかもしれませんが、週1回のホームヘルパーの調理で栄養状態を保つのはちょっと難しいでしょう。
また、要支援の利用者の中には、本当に支援が必要なのか?と思うような人もいるとのこと。
「友達と旅行に行くからと言ってデイサービスを休む人がいたり、日常的にスポーツジムに自転車で通っている人がいたり。それだけの元気があるなら、介護保険のサービスを使う必要はないと思うんです。要支援のサービスを廃止して、生活援助は残す方が在宅生活継続にはよいと思います」とこの管理者は語る。
介護事業所は大規模化な方が効率的という指摘も。統合や再編は本当に有効?
財政制度等審議会財政制度分科会では、もう一つ、大きな論点があります。
介護事業所・施設の経営の効率化についてです。
介護サービス事業者の事業所別の規模と経営状況との関係を見ると、規模が大きいほど効率的な経営を行うことができるため、経営状況も良好だと指摘。介護サービスの経営主体の統合や再編等を促す施策を講じていくべきだとしているのです。
すでに、2018年4月の財政制度等審議会財政制度分科会で、介護サービスの経営主体の大規模化等の施策について、以下のような案が示されています。
(1)介護サービス事業の人事や経営管理の統合・連携事業を自治体が目標を定めるなどして進める
(2)一定の経営規模を有する経営主体の経営状況を介護報酬などの施策の決定にあたって勘案することで経営主体自体の合併・再編を促す
(3)経営主体について一定の経営規模を有することや、小規模法人については人事や経営管理等の統合・連携事業への参加を指定・更新の用件とする
(財政制度等審議会財政制度分科会 平成30年4月11日開催資料より引用)
(3)など、小規模事業所は生き残れないのではないかと思わせるような提案です。
これはあくまでも財務省の案であり、実際に、どこまでの施策が実践されていくことになるかは未知数です。しかし、介護事業所の大規模化については以前からしばしば話題に上がっており、何らかの形で大規模化を促す仕組みが、これから具体化していくのかもしれません。
いざ、施策が打たれてから慌てることがないよう、こうした検討事項について、現場の介護職一人ひとりが関心を持って見守りたいものです。
<文:宮下公美子 (社会福祉士・臨床心理士・介護福祉ライター)>