先輩が配慮したい、新人介護職が感じるプレッシャー
4月、新年度を迎え、職場に新しい仲間を迎えた方も多いことと思います。
実務経験者や異動者も、新しい職場に慣れて、本来の力を発揮するまでには少し時間が必要です。
ましてや、新卒の入職者は、社会人となって仕事に就いたばかりです。今は、緊張し、戸惑い、不安でいっぱいなのではないでしょうか。
新人介護職を迎える側は、介護の仕事が、一般企業に比べて、最初から多くのことを求められがちであることを改めて意識しておきたいですね。
企業に就職した新卒者は、先輩、上司と接し、人間関係を構築しながら、仕事を覚えていくことになります。
まず社会人としての自覚を持ち、職場に慣れることが求められ、即戦力として力を発揮することが必ずしも求められていない職場も多いことでしょう。
しかし、介護の職場では、新人介護職にもケアを担う一員としての働きが期待されがちです。
新人介護職はその期待を背に、先輩、上司に加え、利用者とも接し、それぞれの個性を覚えながら、人間関係を築いていく必要があります。
しかも同時に、様々な仕事の手順、介護実務も覚えなくてはなりません。
社会人としての自覚、援助者としての心構え、介護実務の習得、密度の濃い人間関係…。そうした難しい課題に一度に向き合うのはなかなか大変なこと。ベテランとなった方たちも、自分の新人時代を振り返って、どれだけ緊張していたかを思い出せるといいですね。
また、利用者の心や身体をケアする介護実務の習得は、一般企業で仕事の手順を覚えるより、難易度が高いといえるかもしれません。
一通りの介護技術が身についていたとしても、ケアする相手によってやり方を変える必要があり、その対応は非常に複雑です。
相手の身体的な特徴や個性を把握しつつ、応用させて対応するのに慣れるには、どうしても時間がかかります。
一般企業では失敗してもせいぜい怒られるだけですが、介護で失敗すれば、時には利用者の心身を傷つけてしまう恐れもあります。様々な高度な対応力をいきなり求められることになる新人介護職を、先輩は温かい目で見守りたいものです。
新人介護職を定着させるのは、先輩職員の大切な役割
ある職場では、新人が入職しても先輩たちが忙しすぎて指導ができず、朝、「とりあえず利用者さんと話をしていて」と声をかけたきり、昼までそのまま何も指導できなかったことがあったといいます。
新人にしてみれば、先輩たちが忙しく働いている中、何もできないまま利用者とただ話をしているなど、実に居心地が悪かったことでしょう。
手の空いている新人が何か手伝いたいと思っても、忙しそうな先輩に声をかけるのもはばかられる、という声もよく耳にします。
そんな居心地の悪さを解消できないままでは、辞めていく人が出てしまいかねません。
忙しい中、手取り足取り指導しなくてはならない新人を引き受けた先輩も、もちろん大変ですよね。ますます余裕がなくなってしまうかもしれません。
生活を支える介護の職場は、待ったなしですから、一般企業のように時間をかけて指導することができないこともあるでしょう。
それでも、介護職の求人難の中、採用した大切な新人を短期間で失ってしまうようなことになっては、大きな損失です。
先に書いた職場では、せっかく新人を迎えたのに置き去りにしたままではいけないと反省。先輩職員が新人に少しずつ仕事を任せ、とにかく声をかけることを意識するようにしたといいます。
「頑張っているね」「困っていることはない?」「今のはとてもよかったよ」「いい笑顔が出ているね」と、すれ違いざまなど、みんなでポジティブな言葉をかけ、孤立感をなくしたといいます。
人は誰でも、見ていてくれる人がいると、安心できます。見ていて声をかけてくれる人がいれば、困ったときに助けを求められます。
この職場では、先輩たちが意識して声かけをするようにしてから、新人の定着率がぐっと上がったといいます。
せっかく迎えた新人が職場に定着し、力を発揮できるようにするのは、先輩たちの大切な仕事です。ぜひ、温かい目で見守り、声をかけて、居心地の良さを作り出してほしいと思います。
<文:宮下公美子 (社会福祉士・臨床心理士・介護福祉ライター)>