多くの介護関係者から、ついに来たか、という声が上がりました。
現在は、自己負担なしで全額を介護保険でまかなっているケアマネジメント(ケアプランの作成やサービスのコーディネート)。これを、1割あるいは2割は利用者の自己負担にしよう、という検討が始まりました(*)。これまでも何度も、厚生労働省の審議会で話題にのぼりながら、結局、見送られて来たこの問題。いよいよ本当に導入されるのでしょうか? これまでに審議会等では、以下のような意見が出ていました。
ケアマネジメントの利用者負担導入には慎重な意見が多かった
【賛成派・推進派の意見】
●制度創設から10年を経過し、ケアマネジメント制度がすでに普及・定着している
●小規模多機能サービスや施設サービスなど、ケアマネジメントが料金に含まれているサービスでは、既に利用者が必要な負担をしている
●利用者自身のケアプランの内容に対する関心を高め、自立支援型のケアマネジメントが推進されるのではないか
●実際に利用者がそのサービスを受けているので、それに応じた負担をしてもらうのはやむを得ない
【反対派・慎重派の意見】
●ケアマネジャーによるケアプランの作成等のサービスは介護保険制度の根幹。利用者負担の導入は制度の基本を揺るがしかねない
●ケアマネジメントは介護保険の入口。ここに利用抑制がかからないようにすべき
●必要なサービス利用の抑制により、要介護の重度化につながりかねない
●自己負担が導入されたらケアマネジャーが利用されず、適切なサービス利用ができなくなる
●セルフケアプランやサービス事業者によるケアプラン代行業務が多くなり、自立支援を抜きにした生活を楽にするサービス利用に流れ、かえって介護費用が増大する
●セルフケアプランが増加すれば、市町村の事務処理負担が増大する
●低所得者ほど専門職によるケアマネジメントが必要。自己負担を導入するとその機会が奪われる
このように、過去の議論では、導入には慎重な意見が多く、見送られてきたという経緯があるようです。
国の施策をひっくり返せるような代替案の提案を
介護関係者の間で、賛成派の意見に対して、特に疑問の声が多いものがあります。それは、「利用者負担の導入が利用者のケアマネジメントへの関心を高め、自立支援型のケアマネジメントが推進される」というもの。
介護保険サービスの利用の実態は、この意見とはかなり違うといわれているからです。利用目的は利用者の自立支援というより、たとえば、本人が友人の通うデイに行きたいためであったり、家族の都合や希望のためであったり。「必要」ではなく「欲求」に基づいて、サービスが提供されているというのです。
それを当然、と思っている利用者が多い今の状況で利用者負担を導入したら、「お金を払っているのだから、こちらの望むとおりのプランをつくってほしい」と言われてしまう可能性が高いですよね。これを改めるには、利用者負担を導入する前に、まず利用者に「介護保険は自立支援のために利用するもの」という制度の理念をしっかり理解してもらう必要があります。
「国は、実はそんな実態はよくわかっている。しかし、とにかく給付を抑制し、財源を確保するために、自立支援プランにつながるという建前で利用者負担を導入しようとしているのだ」、という声もあります。今回の法改正で、すでに財源確保のための施策はいろいろ行われていますよね。一部の利用者の負担割合の2割への引き上げ。一定以上の自己負担に助成が出る「高額介護サービス費」の負担限度額の引き上げ。施設入所の低所得者の食費・居住費の負担を軽減する「補足給付(特例入所者介護サービス費)」の対象者の見直し。しかし国は、まだまだ財源が足りない、という危機感が相当強いということです。
今後は給付対象そのものが絞られていくのでは、という声もあります。
おかしいじゃないか! と思っても、財源がなくてはどうにもならないのも事実。国の施策をひっくり返せるような、利用者を守りつつ制度を維持できる代替案。そんな案を提案できれば、国の考えも変わるのかもしれません。
<文:宮下公美子>
*ケアプランに自己負担 在宅介護、給付抑制へ1割 厚労省検討 (日本経済新聞2015年9月7日)