ベテラン介護福祉士は8万円賃上げ―新たな処遇改善加算の具体案が検討へ
2018年12月、厚生労働省の審議会で、10年以上の実務経験がある介護福祉士について、各事業所で少なくとも1人、月額給与を約8万円アップするか、年収を440万円以上にするよう各事業所に求める処遇改善の案が示されました(*)。
実に不思議な提案です。
職場で1人だけ、月給を8万円引き上げることなどできるものでしょうか。
厚生労働省の提案では、加算分について、
(1)経験・技能のある介護職員、(2)他の介護職員、(3)その他の職種、の順に配分されるようにしてはどうかという但し書きが付けられています。
(1)~(3)の区分についての説明は、以下の通りです。
「
(1)経験・技能のある介護職員」は、
勤続年数10年以上の介護福祉士が基本。「勤続10年」の考え方は、事業所ごとに設定してよいとのこと。つまり、その事業所で勤続10年でも、前職も含めて経験10年でも、事業所判断でよいということです。
「
(2)他の介護職員」は、
「(1)経験・技能のある介護職員」以外の介護職員。
「
(3)その他の職種」は、
介護職員以外の全ての職種の職員。
そして、具体的な配分の仕方については、下記の提案が示されています。
「
(1)経験・技能のある介護職員」のうち1人は、
月額8万円以上または年収440万円以上となるようにすること。
「
(2)その他の介護職員」の平均処遇改善額は、
「(1)経験・技能のある介護職員」の平均処遇改善額×1/2以下とすること。
「
(3)その他の職種」の平均処遇改善額は、
「(2)その他の介護職員」の平均処遇改善額×1/2以下とすること。
この処遇改善の施策には、2019年10月に予定されている消費税増税分から1000億円、介護保険財源から1000億円の合計2000億円が充てられる方針です。
つまり、利用者を含む被保険者に、さらなる負担をお願いする処遇改善になります。
介護職には、処遇改善はありがたい、でも利用者の負担が重くなるのは心苦しいと思う方も多いのではないでしょうか。
介護職が快適に働き続けるために、給料アップより大切なことはないのか
今回の介護職員の処遇改善についての議論の過程では、「介護人材不足は賃金の引き上げだけで解決できるものではない」という意見が、複数の審議会委員から示されました。
そこで処遇改善について指摘されていたのは、事業所内での人材活用、マネジメント、定着しやすい職場環境作りなどです。
実際、平成29年度の介護労働実態調査によると、前職を辞めた理由で最も多いのが「職場の人間関係に問題があったため」の20.0%。「法人や施設・事業所の理念や運営のあり方に不満があったため」が17.8%で3番目と、上位を占めています(2番目は、「結婚・出産・妊娠・育児のため」18.3%)。「収入が少なかったため」は15.0%で6番目でした。
複数回答なので、退職の決め手が何か明確化しにくいのですが、少なくとも収入の問題が決め手となっているわけではなさそうです。
介護の職場を取材していると、マネジメントについての問題がしばしば話題に上がります。
サービス提供責任者ごとの新規利用者の契約数をグラフにして事業所内に貼り出し、新規契約を増やすことを求める管理者。
利用者からの暴言や暴力、セクハラなどに悩んで相談しても、「うまく対応できないあなたが悪い」という管理者。
毎月、施設のベッド稼働率を会議で取り上げ、稼働率が下がると相談員を叱責する管理者。
こうした管理者のもとで働き続けていると、自分が何のために利用者と向き合っているのか、わからなくなってくるかもしれません。そうした日々の先に、「職場の人間関係に問題がある」「法人や施設・事業所の理念や運営のあり方に不満がある」という理由での退職があっても不思議はありません。
多くの大規模な法人では階層別研修などを行い、管理者養成にも力を入れています。しかし、特に在宅介護では小規模事業者が多く、体系的な研修を行えていないところもあります。
給与は、低いより高い方がいいのは事実です。
しかし、本当に長く介護の仕事を続けてもらいたいなら、やはりお金の問題だけで解決できることではないと思うのです。
小規模事業者を対象にした管理者教育を保険者に義務づける、離職率の高い職場の報酬を減算するなど、働きやすい職場づくりが進む、思い切った施策も検討すべきではないでしょうか。
*ベテラン介護士の月給8万円増、事業所で少なくとも1人(朝日新聞 2018年12月13日)