介護保険制度のスタートから20年
2000年4月に介護保険制度が導入されてから、丸20年が経ちました。
介護保険は数値で見ても、20年間、拡大を続けたことがよくわかります。
● 65歳以上の第1号被保険者数:
約2,242万人(2000年度末)
↓
約3,549万人(2020年1月末)【約1.6倍】
● 75歳以上の第1号被保険者数:
約923万人(2000年度末)
↓
約1,824万人(2020年1月末)【約2倍】
● 要介護認定者数:
約256万人(2000年度末)
↓
約667万人(2020年1月末)【約2.6倍】
● 介護保険の費用額:
約3兆2,291億円(2000年度)
↓
約10兆1,536億円(2018年度)【約3倍】
介護保険は、「走りながら考える」という方針でスタートした制度。運用しながら、必要に応じて制度を変更していくこととされていました。
そのため、この20年の間に、様々な制度改正が行われています。
介護保険法の主な改正は以下の通りです。
これまでの主な介護保険法の改正内容
【2005年度改正】
● 施設や通所サービス、グループホーム等の
居住費、食費が利用者の自己負担に
→在宅で暮らす要介護者は、家賃も食費も自己負担しているのだからという、公平性の観点から行われた制度変更
●
要支援1・要支援2の新予防給付
●
地域包括支援センターが設置され、介護予防ケアマネジメントを担当
●
認知症グループホーム、小規模多機能型居宅介護など、地域密着型サービス創設
【2011年度改正】
●
定期巡回・随時対応型訪問介護看護の創設
●
介護職員処遇改善加算の創設
→2009年度に「介護職員処遇改善交付金」という形でスタートしたものが、介護報酬に加算の形で組み込まれたもの
● 介護福祉士による
喀痰吸引の実施可能に
【2014年度改正】
●
地域包括ケアシステムの構築を強力に推進
● 一定水準以上の所得がある第1号被保険者の
自己負担を2割に引き上げ
● 要支援1・要支援2を対象とした
「介護予防訪問介護」と「介護予防通所介護」の、介護予防・日常生活支援総合事業への移行開始(2016年度末までに移行完了)
●
特別養護老人ホーム入所受け入れは原則として要介護3以上に
【2017年度改正】
●
共生型サービスの創設
● 一定水準以上の所得がある第1号被保険者の
自己負担を3割に引き上げ
介護保険制度改正で見送りになった事項は?
介護保険制度は3年に1回見直されるため、2020年度は改正案が国会に上程される年です。
介護保険の費用が20年間で約3倍にまで膨れ上がっていることから、制度を持続可能にしていくためには、財源の確保が不可欠です。
そのため、以下のようなことが検討課題に挙げられていました。
しかしこのうち、今回の改正で導入されることになったのは(6)のみ。他はすべて改正が先送りになりました。
(1)被保険者・受給者範囲
● 第2号被保険者の対象年齢の引き下げの検討。「介護保険制度の普遍化」を目指すべきか、「高齢者の介護保険」を維持するべきか。
(2)補足給付に関する給付の在り方
● 低所得者対策である「補足給付」について、対象外の被保険者との公平性の観点から見直すか。
● 預貯金資産だけでなく、不動産資産も勘案対象とするか。
(3)多床室の室料負担
● 介護老人保健施設、介護療養型医療施設、介護医療院等における多床室の室料負担について、在宅要介護者との公平性の観点から見直すか。
(4)ケアマネジメントに関する給付の在り方
● 質の高いケアマネジメントの実現等の観点を踏まえ、利用者負担を導入するか。
(5)軽度者への生活援助サービス等に関する給付の在り方
● 要介護1・要介護2の利用者に対する生活援助サービス等を、市町村事業である「介護予防・日常生活支援総合事業(以下、総合事業)」に移行するか。
(6)高額介護サービス費
● 医療保険とのバランスから、高額介護サービス費の自己負担上限額を引き上げるか。
(7)「現役並み所得」、「一定以上所得」の判断基準
● 利用者負担割合2割の対象の所得を引き下げるか。
(8)現金給付
● 現金給付は、日本では、家族介護が固定してしまう可能性がある等の理由により導入が見送られた。しかしドイツで、家族介護を評価する仕組みとして導入されている。どう考えるか。
現場に即した介護保険制度改正のため、意見の発信を
介護保険制度改正について検討していたのは、厚生労働省の介護保険審議会介護保険部会です。しかし、そもそもこうした論点は、内閣府の財政・経済一体改革推進委員会から、「新経済・財政再生計画 改革行程表2018」で、「第8期介護保険事業計画期間に向けて検討し、その結果に基づき必要な措置を講ずる」として方針が示されていました。
財務省財政制度等審議会が2017年に取りまとめた、「経済・財政再生計画の着実な実施に向けた建議」にも「『改革工程表』に掲げられている検討項目等をすべて着実に実行することなどにより、社会保障の効率化・適正化に不断に取り組んでいかなければならない」と明記されています。
つまり、2019年10月の消費税引き上げがあり、今回の介護保険制度改正による国民へのさらなる負担増は見送られたものの、
今後、ほぼ確実に実施されるということです。
非常に反対意見が多い、『要介護1・要介護2を対象とした生活援助サービスの総合事業への移行』も、このままではいずれ実施されてしまうでしょう。
しかし現状、総合事業が順調に運営されている市町村は多くありません。財政面からの判断で拙速に移行が進められれば、事実上、サービスカットになりかねません。
それでは生活を支えられなくなる要介護者が出ると言われています。
介護保険制度改正は、決まったら降りてくる。納得できなくてもそれに従うしかない――
そう考えているかのように、介護業界は制度開始以来、「待ち」の姿勢を取っている印象があります。
しかし、もっと現場からの意見を発信していくことが必要ではないでしょうか。
そして、現状に見合わない政策があれば、再検討を求め、押し返していく。そんな力を少しずつでも蓄えてほしいと思います。
<文:介護福祉ライター・社会福祉士・公認心理師・臨床心理士
宮下公美子>