訪問介護員の人手不足が深刻化している――。
国が公表した有効求人倍率は15.03倍に達し、ケアマネジャーが訪問介護をケアプランに位置づけても、ヘルパーがいないことを理由にサービスを断られるといった事態も生じている。
いま、訪問介護の現場で起きていることに追った。
訪問介護の利用者数は、介護保険施行当初の99.2万人から、19年度は187.2万人と、およそ20年間で88万人(1.9倍)増加している。
一方、利用者が年々増加しているにもかかわらず、近年、訪問介護員の実人員数は減少している。18年に52万1855人だったのが、翌年には50万8256人と、2.6%減少している。
中でも初任者研修修了者は6.6%減、生活援助従事者研修の修了者は51.7%減と大きくダウンし、新しいなり手が減っている状況がある。
訪問介護員の有効求人倍率は、19年時点で15.03倍、20年度14.92倍と、他産業と比べて異様に高く、職種別の介護労働者の人手不足感でも、約8割の事業所が訪問介護の不足を感じている(グラフ)。
ヘルパー不足はケアにも影響し、ケアマネジャーが訪問介護をケアプランに位置づけても、ヘルパーがいないことを理由にサービスを断られるといった事態も生じている。
20年度からコロナ禍が本格化したことによって、ヘルパー不足にさらに拍車がかかっているが、こうした事態はすでにコロナ前から始まっていた。
ヘルパー不足の要因を語る上で、押さえておかなければいけないのが、訪問介護の制度改正の変遷だ。
制度開始当初、「家事援助」「身体介護」の形から始まったが、03年度から「家事援助」が「生活援助」に変更となった。
そして、06年度の改正で、制度全体が予防重視にシフトする中、新予防給付が創設され、要支援の身体介護と生活援助が統合。
報酬は出来高制から定額制に変わり、利用回数も制限が加えられた。
その後、同居家族が居る場合の生活援助は、給付が厳格化され、12年度には生活援助の提供時間が60分から45分以上に短縮されている。
さらに15年度からは、介護予防・日常生活支援総合業事業(以下、総合事業)が創設され、事業の対象者については、ヘルパー資格がなくてもサービス提供ができる形に改められたほか、報酬についても、各保険者が定める単価が適用されるようになった。
そして、18年度には要支援者の介護予防訪問介護が総合事業に完全移行され、現在、要介護1、2の生活援助についても、総合事業に移すかどうかの議論が行われている。
たび重なる制度改正の影響を受けて、訪問介護員の1回あたりのサービス提供時間は、制度開始当初と比べて確実に短くなっている。
現在の生活援助は、1回あたり45分以下が一般化しており、「時給」ではなく「分給」で計算する事業者もいる。
時間が短くなったことで収入も減少するため、安定的な収入を得ようと思えば、回数を増やす必要があるが、いつも都合よくシフトが組めるわけではない。
さらに複数の利用者をかけもつ場合は、その分だけ、移動時間や待機時間も多く発生する。
厚労省はこうした付帯労働時間に賃金を支払うよう事業者に通知を発出しているが、現状では、十分な支払いを行っている事業所は少ない。
この辺りの労働条件の不安定さが、ヘルパー不足の一つの要因になっている。
内閣府は「地方分権改革に関する提案募集」を毎年行っているが、今年度、熊本県山都町は「介護保険制度における、中山間地域に係る訪問介護サービスの算定基準において、移動時間が適正に取り扱われるような介護報酬単価の見直し」を求める提案書を提出している。
中山間地域の訪問介護では、訪問の移動時間が往復1時間半から2時間を超えるケースもあり、ヘルパーが提供したサービス時間より移動時間が長いケースもある。
それにもかかわらず、ヘルパーの移動時間や待機時間について、報酬が適切に反映されていないことから、今回の提出に至った。この提案に賛同する形で、別海町(北海道)、千葉県、柏崎市、長野県、浜松市、京都府、高知県らが名を連ねている。
厚労省は、訪問介護における移動時間は、原則として労働時間に該当するとし、介護報酬では、「サービスに要する平均的な費用(労働時間に対して支払われる賃金等の人件費も含まれる)の額を勘案して設定することになっている」と回答。報酬の中で事業者が支払えるという考えだ。
しかし山都町は、この「平均的な費用」について、具体的にどのように計算しているのかと疑問を投げかけている。
また、事業所が移動費を支払うことは支払い能力を超えているとし、既存の介護報酬単価の見直しが必要だと主張。
訪問介護の移動時間に関する実態調査と、加算ではなく、利用者に負担にならない形での報酬上の評価を求めている。
訪問介護員の移動問題は、中山間地だけでなく、都市部でも起きている。
訪問介護員の移動、待機、キャンセル時間等に支払われるはずの賃金が未払いであることに対して、3人の現役ヘルパーが裁判を起こしている。
原告らは、この未払いは事業者の責任と言えないとし、国に責任を求めた。
東京地方裁判所で、約3年間、8回の法廷が開かれたが、11月1日に判決の言い渡しがあり、原告らの請求は棄却された。原告らは控訴している。
こちらでも原告らが独自に訪問介護事業者に聞いたところ、移動時間等が報酬の中にどのように入っているのかを示してほしいという意見が多く聞かれたという。
登録型ヘルパーの多くは出来高払いになっており、1月当たりの収入が不安定だ。
コロナ禍の影響もあり、その状況はますます不安定になっている。
こうした訪問介護員の実態と向き合い、人手不足解消に向けた根本的な解決策を検討する時期にきている。
<シルバー産業新聞 2022年12月10日号>
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