ときどき耳にする「成年後見制度」。介護職の方は日常の業務の中で成年後見人と会ったり話したりする機会もあるかもしれません。弁護士が成年後見人になっていることもあるけれど、実は介護職の人でもなれる、そして報酬をもらい、副業にもできるってホント?その実態をひもといてみましょう。
1 成年後見制度とは
2 成年後見制度の対象者
3 成年後見人になれる人は?職業や資格など成年後見人になる条件
4 成年後見人の職務内容
5 成年後見人の報酬は?
6 介護職をしながら成年後見人になれる?
7 まとめ
そもそも、成年後見制度とは、「認知症、知的障害、精神障害などによって判断能力が十分ではない方を保護するための制度」です。
こうした方は生活の中でお金の使い方が上手にできずに借金を作ってしまったり、きちんと契約を結ばずに大きな約束事をしてトラブルになってしまったり、本人のせいではないのに、不利益をこうむることがあります。
こういったトラブルを防ぐため、成年後見人などが援助者として本人の権利擁護をしていきます。
裁判所が定める成年後見制度では、対象になる人の判断能力の度合いによって「補助」「保佐」「後見」と3つのタイプに分かれます。判断能力タイプの決定については、医師の判断をあおぎます。
*補助、保佐、後見は監督人を選任することがあります
裁判所「成年後見制度について」より編集部が作成
判断能力の区分は一概には言えませんが、たとえば認知症の症状が重く、自身の名前も書けないというような方は「後見」になり、知的障害などがあっても作業所や一般企業などで働き、銀行でお金の出し入れができるような方だと「補助」や「保佐」になることが多いでしょう。
なお、上記の成年後見人等がまとめて「法定後見人」と呼ばれるのに対し、事前に任意後見契約を結ぶことを「任意後見」といい、将来が心配という方が利用できる制度もあります。
成年後見人制度で成年後見人等になるには、家庭裁判所による選任が必要です。基本的には特に資格がなくても、次の欠格事由に当てはまらなければ誰でもなることができます。
1.未成年
2.以前に後見人などを解任された経歴がある人
3.破産者
4.本人に対して訴訟を起こした者やその配偶者・直系血族
5.行方がわからない人
一般には「士業」である専門職がなる場合が多いです。弁護士、司法書士、行政書士、税理士、社会福祉士、精神保健福祉士などの各資格を取得している人が家庭裁判所から選任されます。
どの士業の人を選任するかは、申し立て人の希望も加味しますが、事案によって家庭裁判所が判断します。たとえば財産の争いなどがあるケースは弁護士、介護や医療の問題を抱えている人は社会福祉士など、ケースバイケースです。
自分の家族のために家族や親族が後見人等になることを認められる場合があります。
ただし、家族が成年後見制度を利用するために「自分が親の成年後見人になりたい」と家庭裁判所に申し立てをしても、財産管理が難しい場合や相続の争いがある場合など、さまざまな内容を勘案し、第三者の成年後見人等を選任する場合もあります。
このほかに、自治体によっては「市民後見人」の制度を設けているところもあります。
市民後見人とは、士業の資格を持たなくても、親族以外の市民がなれる成年後見人等で、市町村等の支援をうけて後見業務を適正に担います。
市民後見人として活動するためには、一定期間の養成講座を受け、面接などで適任と判断される必要があります。ボランティア的な立場ですが、自治体によっては有償ボランティアとして報酬が出る場合もあります。報酬額のアリ・ナシや、その金額はさまざまです。お住まいの自治体に確認するとよいでしょう。
逆に言えば、家庭裁判所から選任されず自治体とも関係しないままでは、法的に認められず、家族であっても成年後見人等になれません。大切な財産をお預かりするなどの援助なのですから、当然ですよね。
成年後見人等に任される職務の1つが、銀行の預金や有価証券などの財産管理です。適切に収支できるよう、つまり支払いが多くて赤字になったり、払うべきものが払われないような事態にならないようにします。
実際には預金通帳や証券類を預かって、後見人等の名義で支出や預け入れをすることが多いでしょう。もちろん、本人と相談し、本人の意思を尊重します。
また、施設入所や入院、介護・医療サービスなどの契約・支払いなども代理で行うことが多いです。「後見」の場合はすべての代理行為、「保佐」や「補助」の場合は裁判所が決めた範囲での代理行為ができます。
本人が安心して成年後見人等に任せられるかどうかは、人間関係の構築も関係してきます。
定期的に面会に行き、本人の希望や悩みなどを聞き、人生に寄り添うことが非常に大事です。
また、こうした職務をする上では、本人の家族や支援者(在宅の場合はケアマネジャー、訪問介護ヘルパー、在宅医、訪問看護師など、施設入所の場合は施設の管理者や介護職など)との連携も欠かせません。
成年後見人等に選任され職務を行った場合、報酬が支払われます。
報酬額について、裁判所のホームページによれば、以下のように記されています。
「成年後見人が、通常の後見事務を行った場合の報酬(これを「基本報酬」と呼びます。)のめやすとなる額は、月額2万円です。ただし、管理財産額(預貯金及び有価証券等の流動資産の合計額)が高額な場合には、財産管理事務が複雑、困難になる場合が多いので、管理財産額が1000万円を超え5000万円以下の場合には基本報酬額を月額3万円~4万円、管理財産額が5000万円を超える場合には基本報酬額を月額5万円~6万円とします。なお、保佐人、補助人も同様です」
だいたい月額2万円、多くて6万円くらいまでが目安となるでしょう。
報酬は被後見人等から受け取ることになりますが、資産が少ない場合、自治体の支援制度によって、後見人等の報酬のサポートをしてくれる場合が多いです。
成年後見人等は、ひとりの被後見人だけでなく、複数人を担当することができます(上限あり)。複数の被後見人の後見を担当すると、人数分の報酬額が支払われることになります。
なお、報酬額は裁判所が決定し、後見人等はこれに意義を申し立てることはできません。
介護職として勤務している方でも、職場の規定で副業が認められていれば、成年後見人として活動することは基本的に可能です。
実際に、ケアマネジャー、地域包括支援センターの職員として働きながら、副業として成年後見人をしている人は多く見られます。
成年後見人になれるパターンとしては次の3つに分かれます。
(1)弁護士、司法書士、行政書士、税理士、社会福祉士、精神保健福祉士などの国家資格を持つ人は、その上で地域の家庭裁判所に登録します(*)。家庭裁判所はそれぞれの士業の団体とやりとりすることがほとんどです。たとえば、神奈川県在住で社会福祉士資格を持っている人であれば神奈川県社会福祉士会の成年後見活動をする部門に所属・登録し、会を通して申し立ての事案を紹介してもらい、選任に応募をするという形をとります。あるいは、権利擁護活動をしているNPO団体などの法人が行う法人後見の事務所に所属して、担当者になることもできます。この場合は報酬を受け取ることができます。
*各士業団体で養成講座を持ち一定の期間を経てから成年後見人となれる場合が多いです
(2)家族による成年後見なら、資格がなくてもできます。ただし副業ではなく、無報酬でする場合が多いです。
(3)市民後見人であれば、短期間の養成講座を受けることで成年後見人等になることができます。ただ、前述したように、報酬を受けられるかどうかは自治体や事案次第です。
介護職の方なら、社会福祉士や精神保健福祉士の資格を取得して、成年後見人等をするとよいでしょう。これらの資格の知識・技術は介護をする上でも非常に役立ちます。
社会福祉士や精神保健福祉士の資格を取得するには、所定の大学や専門学校を卒業すること、実務経験によって受験資格を得られる場合が多いです。難関資格ではありますが、取得すれば資格取得者として給料アップ、キャリアアップも期待できますし、病院の相談員や公務員への転職にも有利です。
介護福祉士やケアマネジャーを目指すように、社会福祉士や精神保健福祉士の資格取得を目指すとよいでしょう。大学や専門学校にはこれらの資格取得のための通信教育部門も充実しています。時間は長くかかり、授業料なども必要ですが、成年後見人等と通常の職務の両方を実体験することで、より専門性の高い介護職になれるというメリットもあります。
成年後見制度は、認知症・知的障害・精神障害など判断能力が衰えている人であっても安全に安心して暮らすために重要な制度です。成年後見人等は、地域で暮らす一人ひとりを支える福祉の大切な役割となります。
介護・福祉の現場を支える仕事の1つとして、成年後見人等を検討してみてはいかがでしょうか。
社会福祉士、介護職員初任者研修、福祉住環境コーディネーター2級。
約30年前よりファッションや芸能、子育て、教育などを中心にライターとして活動。2012年、親の介護を機に社会福祉士国家資格を取得し、高齢者介護・医療・健康分野でのライターとしても活躍中。
現在は、法定成年後見人として支援が必要な方の財産管理や身上監護も行う。
介護、医療、教育、子育てなどのテーマを中心にWEB雑誌・書籍などの記事執筆を多数担当。
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