前回は、看護師として病院に5年勤めた後に、訪問看護師としてやりがいに目覚めた山本さんをお伝えしました。しかし、その後にもう一度転機がやってきます。有料老人ホームに職場を変えた後、悩んだこと、考えたこと……。その経験が、山本さんの「今」を築いています。
○●○ プロフィール ○●○
山本千鶴子(やまもと・ちづこ)さん/幸(高)齡者ハンドセラピスト
看護専門学校卒業後、病院の神経内科で看護師として5年務め、結婚。ご主人の転勤に伴って静岡県に移り、訪問看護師に。訪問看護のおもしろさを知り、第一子出産後に介護支援専門員の資格を取得。第二子出産と育児を考え、その後は有料老人ホームの看護師として働く。が、高齢者と日々接する中、高齢者に正面から向き合って触れたいと考え、ハンドマッサージを学び、独立。ハンドセラピストとなる。自ら老人ホームに赴き施術するほか、ハンドマッサージの教室を主宰し、後進の指導にも務める。
幸(高)齢者ハンドセラピスト~ハンドケアはハートケア~
看護師出身のケアマネジャーとしてやりがいを
静岡県での訪問看護師時代。「やりがいを感じて、とにかく仕事が楽しかった」
――訪問看護ステーションでは、看護師でありながら、ケアマネジャーも務めていました。看護出身のケアマネジャーのよさってどこにありますか?
看護師のケアは、お体に触れることが基本です。ケアマネジャーだけですと、お話をして介護計画書を作ることが中心ですが、お体に触れて、配慮したほうがいいところなどがわかった上で計画すると、よりその方にフィットする内容になるのではないかと思うんです。特に、病気やケガなどがある方、投薬の必要がある方には、具体的に役立つ内容になりやすいと思います。
思うんですが、「ケアマネジャー」とひと口に言っても、みなさんいろいろですよね。施設介護中心で、介護福祉士からケアマネになった方、訪問介護で生活をじっくり見てからケアマネになった方、私みたいに医療出身者。それぞれによさがあり、一種の傾向みたいなものがあるのだから、プロフィールつきのケアマネ紹介があってもいいんじゃないかな、なんて思ったりします(笑)。その経歴を見て、利用者様が「持病の管理が大変だから、医療系出身がいい」「生活中心にみてもらいたいから、日常に寄り添ってもらえる訪問介護出身のケアマネジャーがいい」といったように、選べると理想的ですよね。
ともあれ、看護と介護をいっしょに考えていけるケアマネジャーの仕事はとてもやりがいがありました。長男が生まれてからは正社員ではなくて、契約パートのような形でしたが、「看護出身のケアマネジャー」という立場が、とても合っていると感じていました。
「ただ忙しいだけ」の日々に疑問を持って
――訪問看護ステーションで勤務後、山本さんは有料老人ホームに職場を変えていますよね。それはどうしてですか?
第二子が生まれて、育児に費やす時間がどうしても長くなり、しばらくは決まった時間で働ける環境のほうがいいと思って転職しました。プライベートと仕事とが切り離せたことは、子育てする環境としてはよかったのだと思います。けれど、長女が小学校3年生のときに言われたことで、ガーンとショックを受けたんです。
「私は大人になりたくない」って。「大人の女の人は、大変だよね。仕事でやることがたくさんあって、家に帰ってもやることがいっぱいあって、いつも忙しいよね。でも、パパは何もやらないよね」って(笑)。うちの夫は事務職で、家に帰ってもあまり家事は手伝わない人です。あー、言われちゃった、と思いました。でも、どうなんでしょう。もし、私が忙しくても、楽しんで仕事をしているように見えれば、「女の人は大変だよね」なんて言わなかったはずです。私は何度か、娘を仕事場に連れて行ったことがあるんです。そのときの仕事ぶりを見て、「楽しそうな感じがしないな、大変そうだな」と思ったのではないでしょうか。
子どもは親の背中を見て育つといいます。そうであるなら、この状態はマズイ、と思いました。きっと私は日々、「やりたくないことをやらされている」というオーラを出していたのでしょう。でも、そんなのは自分のせいでもあるわけです。子どものせいではありません。もっとイキイキと楽しげにしている親を見せなければ、と心底思いました。では、何をすれば、自分は楽しいのか。問いかけてみたのです。
高齢者の手に触れているときが自分にとっても幸せな時間に
――どんな糸口があったのでしょうか?
老人ホームで、介護士さんと一緒に働くようになって、とても感激したのは、みなさん、すごく自然に利用者様にスキンシップをしていることです。うしろからギュッと抱きついたり、ほっぺたをピタッとつけて一緒に写真を撮ったり。そうすると、利用者様の表情がたちまち和らぐんですね。ああ、いつも笑わないこの方が、こんなにやさしい表情になるんだ、などと驚きました。
ユマニチュード(*)だとかノンバーバル(非言語)コミュニケーションだとか、難しい言葉を使わなくても、介護士の方は、軽々と実践しているんですよね。
看護でもお体に触るわけですけれど、それは「処置」が多くなるんです。処置ではなくて、自分の気持ちを素直に表したこうした自然なふれあいを基礎に、高齢者の方々と関わって行けたら……。施設介護という形もいいのですが、自分はもっと高齢者にやさしく向き合って、ゆっくりとお話を聞いたり、手をさすってあげたりしたいんだ……。そんな思いが、私をハンドマッサージへと導いたのだと思います。
*ユマニチュード:フランスで生まれた認知症ケア。同じ目の高さで見つめること、触れること、話しかけること、立つ支援をすることなどを基本にする
次回はハンドセラピストとして独立した後についてお伝えします。
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