毎回、介護にまつわる問題点やちょっと困った介護スタッフの珍行動、介護現場での珍事件などを紹介するこのコーナー。
今週は、「ヘルパー、謎の退職理由」という話題を紹介します。
突然、義父の介護を頼まれて…
介護業界にとっては耳が痛い話しだが、「人に面倒を見てもらう」ということに嫌悪感を抱く高齢者は少なくないようだ。
ということは、「身内でなおかつ介護のプロ」という存在は、極めて重宝されるもの。
関東地方の某県に住む50代の女性・Tさんは、「介護のために介護の仕事を辞める」という事態に遭遇した。
その理由は何だったのか?
Tさんは30代前半で訪問ヘルパーの仕事を始め、以来十数年仕事を続けていた。
Tさんは、持ち前の明るさで利用者からとても慕われており、仕事にとてもやりがいを感じていた。
しかし、ある時、愛知県にある夫の実家に行き、義母とおしゃべりしている際、こんな話になったという。
義母 「○○(夫)から聞いたんだけど、Tさんはヘルパーの仕事をやってるの?」
Tさん 「はい。もう○○年ぐらいやってます」
義母 「それだったらお願いなんだけど、こっちに来てウチのお父さんの面倒を見てくれない?」
Tさんの義父は認知症が進み、家の中はてんやわんやの状態だったという。
俗に言う“老々介護”が辛くなってきた義母は、介護の手を借りたくなったのだが、手続きなどが面倒なうえ、他人が家に入ってくることに対するストレスを恐れており、「それならTさんに」と、考えたのだ。
嫌々始めた義父の介護だが、役立つことも?
Tさんにしてみれば、この話しは迷惑極まりないものであった。
Tさん家にはまだローンが残っており、子どもの進学費用も準備しなくてはいけない時期。
Tさんが家を離れてしまえば、Tさん家の家事をやるものがいなくなってしまう。
しかもこれまで“夫なし”で義父母の家に行ったことはなく、気を使うことは目に見えている。
しかし、義父母の申し出は執拗だった。
Tさんが振返る。
「こっちは『家のこともあるので』『家計も苦しくて』と、色んな理由をつけて断ったんです。
ですが、『他人の世話ができるのに、親の面倒は見れないのね』と、言われてしまうと、言い返すことができなくて……」
結局Tさんは月に数回、泊りがけで義父母の家に通う生活を送っており、あまりの負担の大きさからヘルパーを辞めざるを得なくなってしまったのだそうだ。
義父母からは経済的な援助を受けているのが救いだとか。
今となっては後の祭りだが、Tさんは、「ヘルパーをしていることを黙っていれば良かった」と、若干の後悔があるという。
しかし、Tさんと義父母との関係は介護を始める前よりも親密になったようで、「悪いことばかりではなかった」と前向きにとらえている。
最近では友人から、両親の介護について相談を受けることもあり、「この経験は無駄ではなかったかな?」と思えるようになってきているそうだ。