毎回、介護にまつわる問題点やちょっと困った介護スタッフの珍行動、介護現場での珍事件などを紹介するこのコーナー。
今週は、「人の世話は性に合わない?」という話題について紹介します。
人と話をする仕事は性に合わない、と思いながらヘルパーになって…
仕事を探す時、必ず肝に銘じなければいけないのは、“自分がやりたいこと”と“自分ができること”は必ずしも一致しないということ。
プロ野球選手やアイドルに憧れる人が、必ずしもその職業につけるわけではないのを見れば明らかだ。
ただし、これは「逆もまた真なり」で、“自分がやりたくないこと”が“自分ができないこと”であるとも限らない。
都内の訪問介護事業所で働く30代の男性・サイトウさんは、初めはホームヘルパーになる気はこれっぽっちもなかったものの、ホームヘルパーになった今では天職とさえ思っているという。
サイトウさんは10代の頃から長年建築関係の仕事をしてきたが、不況で仕事が減り、転職を余儀なくされた。
学生時代から勉強が苦手で、体を使う仕事を希望していたサイトウさんだが、思うような職場が見つからないうちに貯金が底を突くことに。
転職活動中に友人からホームヘルパーの仕事を勧められたが、まったく興味がなかったという。
「自分は学生時代から無口で、ひとりで黙々と働ける建築関係の仕事が気に入っていたので、『人の世話をするなんて性に合わない』と、友人の誘いを断っていました。
しかし、お金がいよいよなくなり、親に借金を申し込むと、『“性に合わない”なんて理由で、紹介してもらった仕事を断る人間にお金は貸せない』と言われてしまいました。
そこで友人に頭を下げて、ホームヘルパーの仕事を紹介してもらったんです」
友人からの紹介でホームヘルパーになることになったサイトウさん。
採用はされたものの、人と触れ合う介護の仕事などできないと思い込んでいたが、訪問介護事業所はひと目見て、彼の適性を見抜いたようだ。
きちんと挨拶ができていれば、おしゃべりが苦手でも大丈夫!
サイトウさんをヘルパーとして採用した、上司のハラさんが語る。
「サイトウさんは言葉数こそ少ないものの、きちんとした敬語が使えました。
学生時代に運動部にいて、上下関係が厳しかったためか、自然と敬語が身についたようです。
しかも建築関係の仕事をしていたので体力は抜群で、力もあります。
誤解している人が多いようですが、我々は、ヘルパーが他愛もない会話を交わすのは“プラスアルファ”と考えています。
ヘルパーには最低限必ずやるべきことがありますし、そもそもすべての利用者が、ヘルパーとのおしゃべりを望んでいるわけでもありません。
きちんと挨拶ができ、敬語が使え、目を見て話せれば良いのです」
事業所ではサイトウさんの希望を叶え、おしゃべりをしなくてもいいようなお宅に彼を派遣。
ヘルパーとして実際に働いているうちに、サイトウさんの心境には変化が生まれたという。
サイトウさんが語る。
「私は無口なことがコンプレックスでしたが、利用者の男性から、『ペラペラ話す男は嫌いだ。その点お前は違う』と言われたり、利用者の女性から『自分がおしゃべりだから、アナタみたいな無口な人が好きなの』と言われたりして、うまくおしゃべりができないことをコンプレックスだと思わないようになりました。
確かにコミュニケーション能力はあった方が良いのでしょうが、不用意な発言で利用者の方の機嫌を損ねるヘルパーの話を聞いたこともありますし、おしゃべりが苦手なら苦手で、別に問題はないと思います」
コンプレックスがなくなったことで、自分に自信が持てるようになったと語るサイトウさん。
ただ、ずっと黙っていると「何を考えている分からない」と言われたことがあるため、常に微笑みは絶やさないように気をつけているそうだ。
自分ではコンプレックスだと思っている性格でも、強みとして活かして働けるのがヘルパーの仕事なのかもしれない。