■書名:介護再編 介護職激減の危機をどう乗り越えるか
■著者:武内 和久、藤田 英明
■出版社:ディスカヴァー・トゥエンティワン
■発行年月:2018年8月
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介護の未来は明るい!介護業界の問題点と報酬増への対策に踏み込んだ1冊
介護職の立場、事業者の立場で考えると、現在の介護業界は希望をもって働ける場と言えるだろうか。難しい問題が山積する今、介護業界の将来に迷いのある人が少なくないのではないだろうか。
本書の著者2人は、共に「介護をあきらめない」という強い気持ちから、こうした現状に希望を示したいと考えてこの本の執筆を決めたそうだ。武内さんは厚生労働省の元官僚、一方の藤田さんは介護事業経営者の革命児と呼ばれた人だ。
政策と経営という異なる立場から、長く「介護」に携わってきた経験をもとに、介護職や介護業界における課題を明らかにし、希望につながる現実的な対策を提言している。
第1章から第5章までで、介護業界の現状の把握と問題点の洗い出しがされている。
現場をよく知る著者だけに、現役介護職がSNS上で交わしている話題の実状にまで言及している。また、その中で指摘される問題点には説得力があり、今後目指すべき内容も非常にクリアだ。
<大事な共通の視点は、事業者や介護職自身が「誇りとやりがい」を持つことができ、がんばる人、努力する人が「報われる」ものにすることです。それを理解して事業者、介護職自身も自ら意識を変え、変化していく必要があります。>
単なる理想論に終わらない、力のある言葉だ。
「報われる」ということは仕事として当たり前のことでありながら、実は介護業界ではできていなかったこととも言える。
現場の介護職ひとりひとりが介護の仕事に誇りとやりがいを持て、きちんと報われる仕事に変わるなら、業界はきっと変わるはずなのだ。
第6章以降で提言として示されるこれからの介護業界の対策の中で、特に印象的なのが「介護分野にナイチンゲールを」と語る部分だろう。
看護師は、かつて3Kと言われていた仕事だが、ここ30年ほどで一気に専門職としての地位を確立した。この流れの発端は19世紀半ばのナイチンゲールにあり、彼女の活躍をきっかけに看護は科学的に体系化され、その後、大学教育の中で看護学科が整備され、看護師の専門性に対する報酬増につながった。
介護にも、こうしたナイチンゲール的流れが必要だというのだ。著者は、看護師がたどってきた道すじをヒントにして、介護職を「誇りとやりがい」のある仕事に変えていくべきと話す。
<介護も、看護よりもしかしたら深みがあって科学的な仕事かもしれないのですから、体系化され、学問として学べるようになり、専門性が高まることによって報酬も増えていくという正しい道筋を歩んでいくことが期待されます。>
介護の仕事を体系化することは、決して簡単ではないものの、確実に環境は整ってきているという。「東大に介護の研究機関を」という著者の提案がもし実現すれば、介護の立ち位置も一気に変わっていくことだろう。
介護の現状の厳しさや問題点も鋭く指摘されているが、同時に今後なすべきことも明確に示してくれているので、むしろ背中を押される気になるはず。
介護の未来に力強く可能性や希望を示す一冊と言えよう。
著者プロフィール
武内 和久(たけうち・かずひさ)さん
東京大学法学部卒業後、厚生省(現・厚生労働省)に入省。在英国日本国大使館一等書記官、厚生労働省大臣官房、厚生労働省医政局等を経て、福祉人材確保対策室長を最後に退官。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社アドバイザー(厚生労働省参与、東京大学非常勤講師等)等を歴任。
藤田 英明(ふじた・ひであき)さん
明治学院大学社会学部社会福祉学科卒業後、社会福祉法人の特別養護老人ホームに就職し介護職員兼生活相談員として着任。その後、夜間対応型デイサービスを立ち上げ、株式会社日本介護福祉グループを設立、全国850事業所を開設。内閣府規制改革会議に参画。数多くの新規事業に関わる。