日本人は、“大病院信仰”が強いと言われていますよね。高度な検査機器があり、有名な医師がいる大病院にかかる方が安心。そんな考え方です。しかし、2016年4月からは診療報酬改定により、そんな考え方での受診がしにくくなります。紹介状なしで大病院を受診すると、診察料以外に初診で5000円以上、再診で2500円以上の追加料金を徴収されることが決まったからです(*)。ちなみに大病院とは、病床数500床以上の病院や、大学病院などの特定機能病院を指しています。
まずはかかりつけ医に。必要に応じて大病院へ紹介を
実は、今回設定されたような「追加料金」は、今もあります。初診で平均約2100円、再診で約1000円が徴収されています。しかし、この金額では大病院信仰を打破することができなかったのでしょう。大幅に引き上げられることとなりました。
大病院には、より重い病気を持つ患者に対して高度医療を提供するという役割があります。大病院でなくても診ることのできる軽度の患者がたくさん受診しては、本当に高度な医療が必要な患者が必要な医療を受けることができなくなってしまいます。この追加料金の設定で、安易な大病院受診を減らそうというわけです。
身体の不調を感じたときには、まずは地域のかかりつけ医に診てもらう。そして、かかりつけ医がより高度な検査や治療が必要だと判断した際には、かかりつけ医の紹介状を持って大病院を受診する。5000円以上の追加料金の設定によって、そんな流れをつくろうとしています。
そこで問題になってくるのが、かかりつけ医探しです。高血圧や糖尿病などの慢性疾患のある人は、かかりつけ医を持っているケースが多いかもしれません。しかし、普段これといった病気もなく過ごしている人には、かかりつけ医のいない人がたくさんいます。かかりつけ医をいったいどうやって探せばいいのかが問題になっています。
在宅介護事業者は、かかりつけ医探しの相談を受けるかも
電話帳のイエローページや地域の情報紙、インターネットなどで、地域のクリニックなどを探すことはできます。役所や地域包括支援センターなどでも教えてくれることでしょう。しかし、そのクリニックの評判まではなかなかわかりません。
そのため、ケアマネジャーやヘルパーなど在宅の介護職は、利用者等から「どこかいいクリニックはないか」と聞かれることもあると思います。実際、在宅で仕事をしていると、日頃の業務を通して様々な医療機関と関わる機会があり、また利用者からも医療機関についての評判を得ていることでしょう。利用者の役に立つならと、知っている情報を伝える場合もあるかもしれません。
利用者に伝えるなら客観的な情報を
その際、気をつけたいのは、できるだけ客観的な情報を伝えることです。
たとえば、「この薬は合わないから飲みたくない」と患者が言うと、いつも「ああ、そうですか。では止めましょう」と言って、処方を中止する医師がいたとします。それを「患者の言うことをよく聞いてくれるいい医師だ」と思う人もいるでしょう。一方で、「患者が嫌だと言っただけで処方を中止するなんて、治療方針がいいかげんな医師だ」と思う人もいるかもしれません。同じクリニックに行っても、受ける印象は人によって違います。主観的な情報では、情報が偏ってしまう恐れがあります。
地域のAクリニックの医師は、患者が納得するまで説明をしてくれる。受付の女性に頼むと、駐車場まで車いすを持って迎えに来てくれる。具合が悪そうにしていると、横になって待てる別室に案内してくれる。Bクリニックは、医師が一度も顔を見ずに薬を処方する。いつ行っても混んでいて、待ち時間が1時間以上になる。そんな事実に基づいた客観的な情報を伝えれば、それを元に、利用者自身がどのクリニックを自分のかかりつけ医にするかを判断する材料にできます。
また、クリニックの評判を落とすような主観的な情報を安易に伝えると、営業妨害だといわれることもあるかもしれません。利用者の役に立ちたいと思っても、「これは客観的な情報かな」と考えながら伝えるようにしたいものです。
<文:宮下公美子 (社会福祉士・介護福祉ライター)>
*診療報酬 紹介状なしで大病院、初診5000円以上 改定案(毎日新聞2016年2月10日)