高齢者共同住宅で相次ぐ火災。防災設備の設置基準は?
2018年1月末、札幌市の自立支援住宅の火災で、11人が犠牲になるという痛ましい事故がありました。
高齢者の共同住宅で複数の犠牲者が出る火災は、これまで何回も繰り返されています。2010年の群馬県の無届け老人ホームの火災、2013年の長崎県の認知症グループホームの火災などです。
こうした火災が相次いだことから、2015年に消防法が改正されています。
認知症グループホームや小規模多機能型居宅介護事業所、お泊まりデイサービス、乳児院、障害者グループホームなど、入居、宿泊を伴う施設は、広さにかかわらずスプリンクラーの設置が義務づけられたのです。
しかし、今回火災が起こった札幌市の自立支援住宅は、スプリンクラーの設置義務が課せられていませんでした。
消防法で設置が義務づけられている高齢者施設でもグループホームでもなく、総務省令で設置が義務づけられている11階建て以上の共同住宅でもなかったからです。
スプリンクラー設置にかかる高額な費用。多大な負担は困難
札幌市の自立支援住宅では、火災によって大きな犠牲が出たことから、運営する法人の対応や法律の不備を指摘する声もありました。
しかし一方で、この住宅のように、小規模で低料金の共同住宅にスプリンクラーの設置を義務づけることに手放しで賛同できないという意見もあります。
数百万円にも及ぶスプリンクラーの設置が必要になれば、運営できなくなる。あるいは利用料が高額になって、低料金の住宅を必要とする人が入居できなくなる。そうした意見は少なくありません(*1)。
そんな中、あるNPO法人では、民家を改装し、障害者のグループホームを開設しました。
厳しい資金繰りの中、300万円をかけてスプリンクラーを設置したことについて、管理者は「火事になり、スプリンクラーが作動すれば、この住宅はもう使えなくなる。命を守るために必要だということは分かるが、300万円をかけて設置する負担は大きい」と語っていました。
安心できる高齢者住宅には、行政の助成や設備開発の努力が必要
今、過疎化が進む地方都市では、空き家対策が大きな課題になっています。一方で、一人暮らしの高齢者の増加という課題もあります。そこで、空き家を改装し、自立した高齢者向けの共同住宅にしてはどうかという意見が出てきました。
一人暮らしの自立した高齢者が一緒に暮らすことで、互いに見守り、助け合い、支援者が日勤でサポートする。二つの課題を一度に解決できる、良いアイデアだと思えます。
一軒家ほどの広さ、階数の住居で、介護の必要のない高齢者が同居しているだけであれば、スプリンクラーの設置義務はありません。
しかし、当初自立した状態で入居しても、年齢が進むにつれて、介護や家事などの支援が必要になる人も出てくるでしょう。特に、外部サービスで全てをカバーするのが難しい食事の提供を、利用者が運営者に求めるようになる可能性は高いといえます。
高齢者だけを入居させる住宅の運営主体が入居者に食事を提供すれば、その住宅は有料老人ホームと見なされます。そうすると、広さにかかわらずスプリンクラーの設置が必要になります。
入居者の要望に応えると、数百万円の設置費用を捻出しなくてはならなくなる。場合によっては、運営が難しくなるかもしれません。しかし、それが法律の現状なのです。
スプリンクラー設置に対する行政の助成の必要性や、より安価で設置できるスプリンクラーの開発を求める声も上がっています(*2)。民間賃貸住宅を自立支援施設のように活用する新たな「住宅セーフティネット制度」では、スプリンクラー等の設置への支援も含まれていますが、返済が必要な融資であり、まだ十分とは言えません。
火事があった自立支援住宅と同じような住宅、施設は、全国に広がっています。特に、冬場、雪に閉ざされる北海道では、野外で暮らすことはできないので、自立支援住宅が数多く開設されています。
支援を必要とする高齢者を事業者が安定した運営で支えていくために、施設の現状を踏まえた行政の速やかな対応が求められています。
<文:宮下公美子 (社会福祉士・臨床心理士・介護福祉ライター)>
*1 自立支援住宅 防火対策に限界(日本経済新聞 2018年2月23日)
*2 私の社会保障論 高齢者施設の防災対策 高額費用、解決が急務(毎日新聞 2018年2月14日)