サービス利用のない「自立」の入居者へ、介護職がすべきだった対応は?
2019年5月、兵庫県明石市の介護付き有料老人ホームで、入居していた「自立」の男性が亡くなってから2週間後に発見されるという出来事がありました(*)。
この老人ホームでは、「自立」の人たちにも、食事、居室の清掃、嘱託医の往診、新聞配達などのサービスが提供されていました。そうしたサービス利用を通して、入居者の状態を把握していたようです。
しかし、今回亡くなった男性は、サービス利用が一切なかったとのこと。
老人ホーム側が意識して男性の状態を把握しようと努めなければ、把握する機会がなかったため、このようなことが起こってしまいました。
この老人ホームの契約内容は不明ですが、多くの場合、有料老人ホームでは「自立」の入居者であっても、
「見守り」がサービスとして利用料に含まれていることと思います。
「自立」の入居者の場合、老人ホーム側からすると介護保険利用による収入がない分、「要介護」の入居者に比べて利用料が高く設定されているホームも少なくありません。「自立」だから、何もしないというのは、利用料を受け取っている有料老人ホームの対応としてはいかがなものかと思います。
むしろ、何のサービスも利用していない入居者こそ、ホーム側は安否確認を含め、見守る意識が必要です。そうでなければ、一般の賃貸住宅で暮らしているのと変わりありません。
ある老人ホームでは、毎朝、職員が朝の挨拶のために居室のドアをノックするといいます。
入居時に各入居者の意向を確認し、希望があれば、ノックしても返事がなかったとき、鍵を開けて居室内に入ることにしているそうです。
こうした対応を行っていれば、万が一、入居者に異変があっても遅くとも24時間以内に気づくことができます。
「手がかからない入居者」への対応は手薄になりがち?
ところで、有料老人ホームに限らず、高齢者施設では
手のかからない入居者ほど、対応が手薄になる傾向はないでしょうか。
筆者は以前、高齢者施設で心理士として勤務していたことがあります。入居者と面接し、悩みや不満を聞き取ることで、落ち着いた生活を送ってもらう役割を担っていました。
入居者の中には、職員の対応について不満を訴える人もいました。
比較的認知機能が高く、元気な人。
周囲がよく見えている気配りが得意な人。
自分からアピールするのが苦手な人。
そうした人たちが、「なぜ私への対応は後回しにされるのか」「Aさんはやってもらえることを、私が頼んでもやってもらえないのはなぜか」「本当は頼みたいけれど、職員さんが忙しそうだから悪くて頼めない」などと不満を言うことがありました。
入居者の配慮や遠慮にきちんと応えられていますか?
もちろん、対応を後回しにしているのではなく、他の入居者との対応に差をつけているのでもないケースもあります。
その入居者が自分でできることを奪わないため、職員があえて手を出さないのです。
しかし、職員の意図が入居者本人に十分に伝わっていないケースもありました。
「忙しそうで頼めない」と、職員に配慮できる入居者には、職員の側からもっと声をかけてもいいのではないかと感じたこともあります。
認知機能が高い入居者の中には、職員の状況を理解し、自分の要求を我慢する人もいます。
自分より職員の手を必要とする入居者がいることを受け止め、そうした入居者への対応が自分より優先されるのは仕方がないと考える人もいます。
職員は、そうした入居者の配慮や遠慮への「甘え」はないでしょうか。
いつも待ってくれるから。文句を言わないから。だから、後回しにしていい、ということはありません。
「いつも待ってくださってありがとうございます」「また我慢させていませんか」などと声をかける。
そうして、入居者の配慮や遠慮に、
職員が「気づいていること」「感謝していること」を伝えていくことは大切です。
職員がわかってくれていると思えば、待つこと、我慢することでの入居者のストレスは軽減され、大きな不満にならずにすむことと思います。
<文:介護福祉ライター・社会福祉士・公認心理師・臨床心理士 宮下公美子>
*老人ホームで男性孤独死 10日超気付かず 兵庫・明石(日本経済新聞 2019年5月31日)