高齢化が進む日本で、介護施設を持続可能にするための取り組みとは?
2018年12月に、厚生労働省老健局長が招集した「介護現場革新会議」。
高齢化の進展でさらに介護ニーズが高まっても、入居型介護施設(認知症グループホームを含む)の運営を持続可能とするため、介護の質を高めつつ、介護人材の離職を防止し、効率的な業務運営を行っていく革新的な取り組みを検討。好事例を横展開することを目的とした会議です。
この「介護現場革新会議」で検討事項として挙げられていたのは、以下の3つです。
・介護施設等における人材確保対策・有効活用策の強化
・介護現場のイメージ改善について
・その他、介護業界の活性化や振興につながる事項
2019年3月には、以下のようなこの会議の基本方針が発表されました。
・人手不足でも介護の質を維持・向上できるマネジメントモデルの構築
・業務の切り分けと役割分担
・周辺業務での元気高齢者の活躍
・ロボットやICTの活用
・介護現場のイメージアップ・人材の定着促進 など
また、6月にはパイロット事業を実施する自治体からの取り組み内容についての説明がありました。
その中で、
生産性向上のための取り組みとして、複数の自治体が挙げていたのが、
「インカム」の活用による業務効率化です。
業務効率化と情報共有に有効な「インカム」
「インカム」とは、イヤホンマイクなどがついたトランシーバーのこと。
身につけて動き回れる内線電話のようなものですが、電話と違うのは、1対多数で話せること。ボタンを押しながら話すと、同じチャネルでつながる全員に対して話しかけることができます。
そのため、例えば、入浴介助で人手が足りない、居室で利用者が急変した、などの際に、インカムで呼びかければ近くにいる職員が駆けつけることができます。
その都度、手が空いている職員を探し回ったり、声をかけて回ったりする必要がないのです。
インカムを導入している事業所の職員に聞くと、声をかけて回る手間と時間が減り、業務効率化と共にストレスが減ったと言います。
また、駆けつけられない職員もやりとりを聞いていますから、オンタイムでの情報共有が行えるというメリットもあります。
インカム本体は、60g程度(スマートフォンの半分以下の重さ)のカードサイズのものも登場。これなら本体をポケットに入れていても負担にはなりにくいはずです。
イヤホンを耳に差し込んでおけば、話すときだけ片手でマイクを口元に持っていけばよいので、普段は両手をフリーに使うことができます。
ケアをする際に邪魔にならないところも、介護現場で評価されている点です。
費用の面から見ても、1台1万円台から購入できるものもあり、操作も簡単であることから、現場で導入しやすいようです。
全職員ではなく、リーダークラスの職員に試験的に身につけてもらい、効果測定している介護事業所もあります。
介護記録の音声入力やデータの自動転送なども
また、
音声入力による介護記録作成の取り組みもあります。これは、もともとは外国人介護職員のために導入する例のようです。
ポータブル翻訳機で音声入力し、音声内容をテキスト変換。それを介護記録に反映するというものです。
音声入力は、まだ完全ではありませんが、年々精度が上がってきていると言われています。
一から介護記録を書き起こすことに比べれば、省力化がはかれることと思います。
血圧計などもブルートゥース(無線通信の一つ)を用いて、
タブレット端末等にデータを自動的に転送できるものが広まりつつあります。
そうして、手入力による記録を減らしていくことは、省力化と共に、正確なデータを記録することにもつながります。
「介護×ICT・ロボット」は、高額の資金が必要だったり、使い勝手が悪かったりで、なかなか導入が進みませんでした。
しかし、今は価格面でも手が届きやすく使い勝手もよい、様々な機器が開発されています。
介護職にストレスなく導入でき、現場の業務効率化につながるICT機器等を、今後はもっと活用していってほしいと思います。
<文:介護福祉ライター・社会福祉士・公認心理師・臨床心理士 宮下公美子>
*介護現場革新会議(厚生労働省HPより)