治療第一の医師は介護職への理解が乏しくて当然
ガンと闘うな、という医師の本が売れるなど、最近は医療を否定するような風潮が見られます。ある医師は、その背景には、医師に対する患者の不信や不満がある、と指摘してます(*)。
医療と介護の連携でも、よく介護側の不満の声を耳にします。上の立場からものを言うような医師が多く、連携が取りにくいという意見です。実際、介護職への理解が乏しく、連携がうまくいかない原因を作っている医師は少なくないかもしれません。
しかし、介護職への理解が乏しい医師がいるのは、ある意味、仕方がないようにも思います。
介護保険開始前、介護職と医師の接点は非常に限られていました。医師にとって、介護保険以前は言わば、介護職は未知の存在でした。
知っていても、医師→看護師→看護助手(=介護職)という病院での指示系統の中で、自分の指示のもとで動く看護師から、さらに指示を受けて動く職種、という位置づけだったかもしれません。
あるいは、訪問診療に行った患者の家で、患者の身の回りの世話をする職種というイメージ。
つまり、「介護」という専門性を持って、患者(利用者)のケアに当たる「専門職」という意識は、著しく乏しかったことが想像されます。
その状態で、介護職が「専門職」として扱ってほしいと考えて相対しても、それはなかなか難しかったことと思います。
介護保険が始まって17年たちますが、医師の関心が、基本的に病気と治療に集中していることに変わりはありません。
「治す」ことに強い意欲を持つ医師ほど、残念ながら、治癒力が衰えていく高齢の患者に対しては、強い関心を持ちにくくなります。高齢者にあまり関心を持てない医師は、介護にもなかなか目が向きません。
そうなると、介護職がどのような専門性と役割を持ち、どのような意識とプライドを持って利用者のケアに当たっているかについて知りようがないとも言えます。
介護職は情緒的なつながりではなく、実利で医師と連携を
超高齢社会を迎えている今の日本で、医師がそうした意識のままでは困ります。困りますが、残念ながらそういう医師は今も少なくありません。
介護職自身がそんな医師と正面から向き合って、医師の意識を変えていくというやり方もあるでしょう。しかしそれはなかなかエネルギーがいる作業です。
それより、そういうタイプの医師には、医師がほしがる情報を渡しながら自分がほしい情報を引き出す、ギブ&テイクの関係を築く方がよさそうです。
たとえば、治療に熱心な医師であれば、治療に役立つ情報を提供することです。
患者(利用者)の投薬後の心身の変化や、体温、尿量、睡眠時間など、薬が影響していそうな具体的なデータとともに伝えていけば、医師は治療方針を検討しやすくなります。
要は、どのような方法であれ、自分のことを、「この人といい関係でいると役に立つ」と思ってもらえればいいのです。
介護職は、仕事柄、情緒的なつながりや、思いを理解してもらうことを大切にする傾向があります。
しかし、医師にはそうした思いはなかなか届きにくいかもしれません。
情緒的なつながりを求めない人には、実利を伴うつながりで関係を築く。そんなふうに考えて連携していくのもよいのではないでしょうか。
<文:宮下公美子 (社会福祉士・臨床心理士・介護福祉ライター)>
*医師の「共感力」訓練で(毎日新聞 2017年6月11日)