看護の道で新しい事業に挑戦する若き経営者・川添高志さん。インタビュー第2回目は、自己採血による健康チェックシステムに取り組む情熱をお伝えします。柔軟な発想で画期的な事業に果敢に取り組み、実現する川添さんのパワーの源に触れました。
○●○ プロフィール ○●○
川添高志(かわぞえ・たかし)さん
2005年3月 慶應義塾大学看護医療学部卒業。大学3年と4年に米国MayoClinicで研修を受ける中で、Retail ClinicやIn-Store Healthcareの業態を知る。在学中より経営コンサルティング会社勤務。その後、東京大学病院で看護師として勤務しつつ、東京大学医療政策人材養成講座にてケアプロの事業を構想し、優秀賞”特賞”を受賞。慶應義塾大学SEA(ビジネスプランコンテスト)で”The best new markets award”を受賞。2007年12月ケアプロ㈱設立。現在、自己採血によるセルフ健康チェックシステムと訪問介護ステーション事業を主に展開。
ケアプロ 公式ホームページ
*掲載内容は取材時(2014年)の情報となります。
病院への初勤務、糖尿病で脚を切断する人を見て…
ケアプロで糖尿病が発覚した方も。
――川添さんが最初に展開したビジネスは、自己採血による安くてスピーディな健診システムですよね。これまで健康診断といえば、企業や官公庁に就職した人などが、年に1回、職場で受けるものが中心でしたが……。
そうですね。そういう方は1年に一度、健診を受けられます。でも、主婦、自営業、フリーターの方は1年に一度など受けられない、「健診弱者」です。この言葉は僕が作ったのですが。こういう方々は、健康状態が悪くなっていても気づかず、重篤な病気になってしまう方がいます。
経営コンサルティング会社のあとで勤務した大学病院では、勤務1日目に、糖尿病で脚を切断する方に遭遇しました。もっと早くから健診を受けていれば脚を失うことはなかったはずですよね。しかも、この方は糖尿病がさらに進行して血液透析を週3回受ける生活になり、生活保護を受けるようになりました。年間600万円の医療費はすべて税金で支払われます。このような方々はたくさんいるはずで、日本にとっても大きな損失です。
大学時代に研修に行ったアメリカでは、スーパーマーケットの店舗で簡易的な健康診断をしているのを見る機会がありました。健康診断を受けたほうがいいと思ってもお金がない、時間がない。そんな方に、生活導線のなかで、さっと健診を受けていただくシステムを作りたい。その思いがつのりました。
そして、1項目500円で健診が受けられるシステムを作り、起業したのです。
血糖値、コレステロール値、中性脂肪、肝機能など、ご自分の気になるところを自己採血によってチェックする。5~10分でスピーディに結果が出るのも、忙しい現代人には大きな意味があると思っています。
催事として駅ナカでセルフ健康チェックイベントを開催したときも好評を得た
――こうしたことができるようになったのはなぜでしょうか?
医療業界にはさまざまな法的規制があり、医師の指示がないと、看護師が採血をすることができません。しかし、自己採血で検体を提出し、それを検査するという形で民間業者の参入が許されることになりました。
現在では、厚生労働省が「検体測定室」という名前をつけて、事業を広げるべきという指針を立てています。6年間がんばってきて、ようやくここまでこぎつけました。
今まで、常設店舗を1店のほかは、電鉄12社と契約し催事イベントを駅ナカで行ったり、商業施設、フィットネス店などでサービスを提供してきました。今後は鉄道会社とコラボレーションし、生活導線上に常設店舗を増やす予定です。まずは駅ナカに1店舗。今後、実績を積んで、どんどん店舗を増やしていきたいと思っています。昨今はこの分野にケアプロ以外にも、たくさんの参入があります。ライバルが増えたという考え方もありますが、切磋琢磨して、普及に寄与していきたいと思います。
――現在の常設店舗は中野、本社も中野ですね。何か理由があるのですか?
中野はサブカルチャー・オタク文化のメッカで、サブカル好きの方々がたくさん集まります。そういう方々にもぜひ受けていただきたいという思いから、中野に本拠を置きました。実際、たくさん来ていただけます。看護師と話がしたいなどという動機の方もいらっしゃいますが(笑)、どのようなきっかけであれ、健診を受ける方が多くなることはいいことです。
ファストヘルスを実践し、健診を身近に
――粘り強いですね。そして、お気持ちも熱く、思い切りよく事業展開されていることが、ホームページの文章からも伝わってきます。けれど、お会いしてみると、とても静かで淡々としている印象です。意外だと言われませんか?
よく言われますね。もちろん、気持ちは熱いつもりですし、勢いづいてやる部分もあります、けれど、あまり見た目がガツガツしていると、社会的な信用という点でどうかと思いますので、おしとやかにいきましょう、と(笑)。また、これまで大変なことが多かったので、多少のことでは、驚かなくなり、興奮しなくなりました。日々修行なので、少し悟りが開けたのかもしれませんね(笑)。
――このセルフ健診は、健診のあり方を変えますね。
そうですね。
駅ナカなどで手軽に健診ができれば、年1回ではなく、気になるときに気になるところをチェックすることができます。美容院に行く感覚ですね。ファストファッションとかファストフードとかと同様、ファストヘルスを実現したいと思っています。スーパーの店先でさっと健診して、「あ、今日はステーキにしようと思っていたけれど、焼き魚にしよう」「肝臓の数値が心配だから、お酒は控えよう」などと、行動をスピーディに変えることもできます。
――それが予防につながり、ひいては膨れ上がる日本の医療費を縮小でき、そして国民は健康に向かって行ける、ということですか?
そのとおりです。自然治癒力を高めて、健康に生きる。まさに僕が考える看護の理想がここにあると信じています。
次回は、「訪問看護のあり方を変える」川添さんの行動をお伝えします。