毎回、介護にまつわる問題点やちょっと困った介護スタッフの珍行動、介護現場での珍事件などを紹介するこのコーナー。今週は、「ヘルパーになったのに、予想外のことが…」という話題について紹介します。
なぜ「潜在ヘルパー」になってしまうのか?
少子高齢化が急ピッチで進むなか、国民的な課題となっているのが介護人材の確保だ。厚生労働省の発表では、団塊の世代が75歳以上になる2025年には、約248万人の介護人材が必要となる。しかし、そのうちのおよそ30万人は、現状のままのだと確保できない予測だ。早急な対策が望まれている。
そんな状況を解消するために期待されているのが、ヘルパーの資格を持ちながらも、現在ヘルパーの仕事をしていない「潜在ヘルパー」と呼ばれる人たち。だが、彼らはなぜ潜在ヘルパーになってしまうのか? 1人の男性の例を紹介しよう。
その男性は、現在都内に住む30代のYさん。彼は高校卒業後、美容系の専門学校に進む一方、バンドマンとしてプロになることを夢に見ていた。専門学校卒業後はフリーターとして食いつなぎながらバンドを続けた。
一見、無計画にも思えるYさんだが、彼には彼なりの考えがあった。
Yさんは今に至るまで実家暮らしを続けており、祖父母も同居しているため、いずれは誰かが祖父母の面倒を見る日がやって来る。Yさんは、自分がバンドで成功しなかった折には、ヘルパーの資格を取って祖父母の面倒を見たうえで、将来的にはヘルパーで食べていこうと考えていた。
計画通り(?)祖母が介護を必要とするようになり、ヘルパーの資格を取って祖母の面倒をみながら、バンドも続けていたYさん。それまでは、音楽の夢ばかり見ている未熟な息子として扱われてきたYさんだったが、金髪の青年が車椅子を押す様子はいかにも微笑ましく、身内の評価は一変した。しかし、バンドが成功することはなく、ついにバンドを諦めヘルパーとして就職した。
…ところが、そんなYさんは現在違う仕事についている。
当初、Yさんは以下のように考えていた。
身内がいずれ介護を必要とする
↓
その折には、ヘルパーの資格を取って介護をしながらバンドも続ける
↓
バンドが上手くいけばバンドを続ける、それがダメなら介護の仕事につく
しかし、いざヘルパーとして就職すると、仕事の大変さもさることながら、「ここまで給料が安いとは思わなかった」(Yさん談)。Yさんは実家暮らしのため、それほど生活が逼迫しているわけではない。しかし、もともと介護の仕事に特別な思い入れもなく、仕事を特別好きでもなかった。Yさんはドライに割り切り、早々にヘルパーを辞め、現在は派遣社員として携帯電話ショップで働いている。
人材を有効活用するには?
2011年に日本総合研究所が発表したデータ(*)によると、
・ヘルパー養成研修を修了したものの現在ヘルパーではない「潜在ヘルパー」は養成研修修了者全体の85.6%、228.8万人に上ると見られる。
・「潜在ヘルパー」のうち144.1万人は「(ホームヘルパーに)就きたくない」と推計される(アンケート結果から算出)。
潜在ヘルパーがすべて、賃金面の不満を理由にしているわけではないだろうが、Yさんのような人が少なからずいるであろうことも想像できる。介護の仕事は、資格を取るのは割合簡単だが、実際に仕事をすること・続けることは難しいのだ。
今後、潜在ヘルパーという人材を有効活用するためには、待遇改善も条件のひとつになりそうだ。
*平成22年度 潜在ホームヘルパーの実態に関するアンケート調査研究(日本総合研究所)