毎回、介護にまつわる問題点やちょっと困った介護スタッフの珍行動、介護現場での珍事件などを紹介するこのコーナー。
今週は、「人見知りのバンドマンがなぜヘルパーに?」という話題について紹介します。
知らない人と話すのが苦手だから、会話のいらない短期バイトを掛け持ち
世の中には、人と接するのが大好きな人がいる一方、「なるべく人と接したくない」「1人でいるのが好き」という人もいる。
現在ホームヘルパーとして働く30代のムラタさんも、かつては人と接するのが苦手だった1人。
しかし、介護業界で働くうちに、人と触れ合うことの素晴らしさに目覚めたという。
ムラタさんは高校卒業後、音楽で成功するという夢を抱き、北関東から東京に出てきた。
音楽を続けるためには、楽器代、スタジオ代、ライブハウスの出演費、遠征費や宿泊費などお金がかかるため、アルバイトをしながらバンド活動をしていたという。
ムラタさんが当時を振り返る。
「私は当時、長髪でしたし、ライブがいつ入るかも分からないので、清掃、梱包作業、工事現場の誘導、倉庫での商品の仕分け、イベントの設営など、色々な短期のアルバイトをしていました。
自分はもともと人見知りが強くて、知らない人と話すのが苦手なので、特にコミュニケーションを必要とされない短期のアルバイトが性に合っていると思っていたんです」
そうやって必死にアルバイトをしながらバンド活動を続けたものの、そう簡単に芽が出るほど音楽の世界は甘くない。
そんな生活を送るうちに、誰とも話さない職場が苦痛になってきたという。
「短期のアルバイトの現場は、コミュニケーションを取るのが苦手な人や嫌いな人が多い印象でした。
昼休みになっても休憩所での会話は一切なく、全員無言で携帯電話を見ているか、寝ているかのどちらか。
同じチームで1日仕事をした人に『お疲れ様でした』と言っても、返事が返ってこないこともありました。
人に話しかけない、詮索しないのが暗黙のルールだったんです。
20代前半まではそれが心地良かったのですが、年齢を重ねるにつれて、寂しさを感じるようになりましたね」
感謝の言葉がやりがい!ホームヘルパーとして役に立てると実感!
アルバイトの現場で誰とも話さずに仕事をすることに寂しさを感じるようになったムラタさん。
ふとしたきっかけで、ホームヘルパーの仕事を知ることになったという。
「ある日、昔のバンド仲間が介護業界で働き始めたことを聞きました。
彼に話を聞くと、経歴や資格がなくても働けるうえ、時間の融通も利くので、バンドも続けていると言うじゃないですか。
それで一も二もなく飛びついたんです」
最初は、バンドが上手くいくまでの腰掛けのつもりだったムラタさんだったが、今ではフルタイムでホームヘルパーとして働いている。
どのような心境の変化があったのか?
「今までの仕事では、誰かにお礼を言われることはほとんどありませんでした。
それが、介護の仕事をしていると、毎日のように『ありがとう』『助かるわ』『申し訳ないねぇ』『お願いするよ』といった言葉をもらいます。
お礼を言ってもらえると、やっぱり励みになりますよね。
利用者さんに『若い人とおしゃべりすると楽しいわ』などと言われて、『自分なんかでも人の役に立てるんだ』ということを知りました。
30歳になったのをきっかけに、資格を取って正社員になりました」
若い頃は大変気性が荒く、ライブハウスや居酒屋で揉め事になることも多かったムラタさんだが、お年寄りと触れ合ううちにすっかり人間が丸くなり、昔のバンド仲間は驚いているのだそう。
今では、バンドマン同士でいざこざが起きると、「お前も介護業界で働け」という冗談まで飛び交うそうだ。