毎回、介護にまつわる問題点やちょっと困った介護スタッフの珍行動、介護現場での珍事件などを紹介するこのコーナー。今週は、「利用者のプライバシーを守るのは難しい?」という話題について紹介します。
利用者のことをブログに書いて…賠償命令!
医師や弁護士、公務員などには、「職務上で知り得たことを他人に口外してはいけない」という守秘義務が存在し、それを破ると処罰の対象となる。近年では、一般企業も、社内規定などで守秘義務ルールを設けるところが増えている。
しかしどこまでが「他人に口外してはいけないこと」なのかを判断するのはなかなか難しい。そんなことを考えさせられる裁判の判決が先日下された。
その裁判は、ある業界で高名な高齢男性が、訪問ヘルパーをプライバシー侵害で訴えたもの。その訪問ヘルパーは、男性の家を訪れたことを、男性の実名入りで2度にわたってブログに綴った。裁判で被告側は「好意的な感情を持っており…」と、プライバシー侵害の意図を否定したが、裁判長はプライバシー侵害を認定。ヘルパーと会社に280万円の支払いを命じた。
裁判にまで発展するのは余程のことだが、プライバシー侵害に関するトラブルの種は、介護現場ではそこら中に転がっているようだ。近畿地方の小都市でヘルパーをしている40代の女性・Tさんはこう語る。
「自分は自宅から車で10分程度の事業所に勤めており、派遣されるのも近所の家ばかり。田舎なので、新しいお宅を訪ねても、『娘と同級生の…』『消防団の○○さんの妹の…』『息子の野球チームのコーチの…』といった具合に、どこかで関係が繋がるんですよ。
そうなると何て言うか……色んなことが“筒抜け”ですよね。お邪魔しているお宅のことはもちろん、『○○さん家は娘婿だから、大変みたいよ』とか、『△△屋さんはダンナがギャンブル好きで』とか、『□□さんところは、息子さんがアメリカで働いてるみたいよ』とか、とにかくご近所の情報に詳しくなってしまう。こっちは『そうなんですか~』『大変ですね~』って、適当に相槌を打ってるんですけどね」
介護職も知っておくべき、誤ったネット利用の怖さ
Tさんの場合はあくまでも“聞く側”であり、先述の裁判のように“漏らす側”ではないものの、周りのヘルパーには脇が甘い人もいるのは事実だという。
「私はツイッターとかフェイスブックとかはやってないんですけど、周りのヘルパーにはそういうのをやってる人がいて、中にはそこに仕事の愚痴や不平不満を書き込む人がいます。『今日も疲れた』とか『だんだんこの仕事を楽しめなくなってる自分がいる』みたいな。いわゆる“かまってちゃん”ですよ。
さすがに利用者の名前を書き込むことはないみたいですけど、フェイスブックのアカウントは実名なんで、利用者の子どもとかが調べたら一発でバレますよね。バレないと思っているのか、バレてもいいやと思っているのか……」
Tさんの事業所では、SNSなどのネットツールの使用に関する一応のガイドラインはあるそう。しかし「多分そんなもの誰も見ちゃいない」と、Tさん。
介護業界に限らない話だが、インターネット利用の正しい知識がないと、結果的に“炎上”などの大トラブルに発展する可能性もある。ましてや介護や医療の情報はとてもプライベートな内容。介護業界人は、いつもそれらのデリケートな情報に囲まれているのだ。
それだけに、SNSやブログを利用する介護職は、もう少し真剣にネットの怖さについて学ぶ必要がありそうだ。