毎回、介護にまつわる問題点やちょっと困った介護スタッフの珍行動、介護現場での珍事件などを紹介するこのコーナー。今週は、「ドラマの設定に日本介護福祉士会が意見書」という話題を紹介します。
月9の主役は、女性介護職員
ドラマやマンガ、アニメ、映画、小説などは、たとえそれが“作り話”と分かっていても、その影響力は大きいもの。テレビドラマなどを見て、医師や教師などに憧れた経験は、誰にでも一度や二度はあるだろうし、中には実際にそれらの職業を志した人もいるだろう。
しかしその一方で、フィクション作品を見たことで、ある職業に対してネガティブなイメージを感じてしまうこともあるはずだ。介護福祉士の職能団体である日本介護福祉士会が、フジテレビで放送されているドラマ内での介護職の描かれ方について意見書を提出し、話題となった。
問題となったのは2016年1月に「月9」(フジテレビ系列月曜夜9時の連続ドラマ枠)で放送された『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』だ。有村架純と高良健吾が主演を務める同作は、それぞれに辛い過去を背負っている2人と、彼らを取り巻く4人の男女の想いが絡み合いながら物語が進んでいく群像ラブストーリー。有村架純演じる“音”は介護施設で働いているという設定だ。
ドラマの設定に、視聴者から疑問が…
日本介護福祉士会が提出した意見書によれば、同作では、主人公が老人施設で過酷な労働環境(24時間勤務)と労働条件(月収14万円)を強いられ、なおかつ上司からパワーハラスメントまがいの仕打ちをされており、
「本当にあのような環境の下で皆さんは職務を行っているのでしょうか。そうであれば身内が目指している介護の資格取得をやめさせようと思っているのですが」(一部抜粋)
というメールが同会宛てに届いたとのこと。日本介護福祉士会は、
「厚生労働省の発表している調査では、他産業の平均給与と比較すると介護職の賃金は低いと出ていますが、女性ではあまり差がないとも言われています」
「多くの事業所が働きやすい環境や職員の教育について真剣に取り組んでいると思われます」(一部抜粋)
と、メールに対して回答し、
「ドラマを作成している方は、介護の給与の低さや労働環境の悪さが言いたいわけではなかったことは十分承知していますが、影響の大きさも考えて頂きたいと思います」
「介護は決して夢のない仕事ではありません。この仕事に真剣に取組み、一生をかけている人間もいることを忘れないでください」(一部抜粋)
という内容の意見書をフジテレビに対して提出した。
月9ドラマの内容が問題視されたとして、この件はテレビや新聞などでも広く報じられたが、それに対する反応は賛否両論だ。ネットへの書き込みを見ると、
「そんなところまで規制しだしたら、もう何も表現出来なくなるのでは」
「ドキュメンタリーではなく、ドラマなんだから・・・」
と、表現・創作の自由だという声は多い。
確かに、医師、刑事、弁護士、教師…ドラマによく登場する他の職業も、すべてリアルに描かれているわけではない。いかにもフィクションと想像できる設定も多い。だが、そうとらえてもらえるのは、世の中に知れ渡っている職業だからこそ。あまり知られていない職業だとドラマが第一印象になることも多く、「そうゆう職業なんだ」とそのまま受け取られてしまいかねない。これが、テレビの影響力の怖いところだ。
ただそう言いつつも、このドラマの設定が100%フィクションかというと、そうとも言えないようだ。ネットでは、こんな声もあがっている。
「介護の仕事をしてるけど、以前働いていたところは、こんな感じでした」
「これが現実。だから、ちゃんと職員の待遇を改善すべき」
介護福祉会も意見書でこう述べている。「確かにご利用者への介護の質が悪く、また職員の処遇もよくないところはあると思います。ただ、全部の事業所がそうなっているわけではありません」。
世間の介護職への関心が高まっている
日本介護福祉士会が、意見書で「多くのマスコミが介護や介護職に関してかなり偏った情報を流しているように感じています」と述べているように、介護(業界)が話題になる際、ことさらにマイナス面ばかりが注目・強調されてしまう傾向は否めない。また介護の給与実態に関しても、女性やパートは、実際は他の産業とあまり差がない。にも関わらず、誇張されているドラマの設定は“やり過ぎ”と言われても仕方のない点はある。
しかし、月9のドラマで介護職が主役になったり、意見書がさまざまなメディアで取り上げられていることは、介護や介護職への関心が高まっている証拠。そういう観点から見れば、このドラマと意見書は、介護業界にとって非常に意味があるものだったと言えるだろう。
この機会に、世間のイメージや誤解をあらためて認識し、介護の仕事の良いところも注目してもらうにはどうすればいいのか、介護業界全体で考えていく必要があるかもしれない。
*『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』に対する意見書(公益社団法人 日本介護福祉会)<PDF>
公開日:2016/3/7
最終更新日:2019/4/12