■書名:あなたの話はなぜ「通じない」のか
■著者:山田ズーニー
■発行元:ちくま書房
■発行年:2006年12月文庫版第1刷 2013年4月文庫版第13刷
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介護のプロはコミュニケーションのプロでもありたい
とても考えさせられるタイトルだ。“教えてあげよう風”の、ちょっと高飛車な感がなくもないけれど、読み始めると、そんな懸念はすぐに吹き飛んでしまう。冒頭から自分自身の「通じない体験」を率直に語る著者の山田ズーニーさんこそ、「自分の話はなぜ通じないのか」という悩みに真摯に向き合ってきた人だとわかるからだ。
山田さんが仕事である団体のトップと交渉したときのエピソードが冒頭に置かれている。交渉の相手は、人を見下す態度も露骨なとてつもなく嫌味なヤツだった。会議の半ばで怒りのタンクが満タンになった山田さんは相手と「通じ合う」ことをあきらめ、「結果だけをとる作戦」に切り替える。そして、作戦は見事成功した、のだったが――。
<ところが、私はいっこうに気が晴れない。みぞおちのあたりに得体の知れない違和感があった。(中略) わたしはゴールを誤った。そのことだけは身体ではっきりわかった。>
<自分が望んでいた結果はこれではない。でも、どう間違ったのか?>と自問自答した山田さんは、いくつかの経験を思い出しながら、どんなときに自分が同じようなイヤな気持ちを抱いたか、逆にどんなときに世界が変わるような充実感を感じたのかを検証し、やがてひとつの答えにたどりつく。
<自分の想いで人と通じ合う、それが私のコミュニケーションのゴールだ。あの会議の席、感情と言葉の接続を切ったとき、「うそ」が始まった。実感のもてない言葉は、私が私として人に関わっていることにはならない、「うそ」だ。>
ここで山田さんが本書のタイトルにこめた「通じない」の意味がはっきりと見えてくる。人と人が互いの想いを通じ合えるようになること、それが「通じる」ということであり、ただ単に言葉が行き交って結果だけがついてくるようなコミュニケーションは、「通じない」と同義なのだ――。
この場所を出発点に本書は、「どうしたら通じ合えるのか」というテーマを具体的に掘り下げていく。山にたとえれば、ガイド役の山田さんに導かれてわたしたちは山をのぼることになるのだが、そのガイド役が“滑落”や“遭難”の経験を経て成長してきた猛者だけに、随所で語られるエピソードがいちいち説得力があって、それだけでも読んでよかったと頷いてしまうほど。
ある意味、コミュニケーションのプロともいえる「介護のプロ」にとっても、このテーマは重く切実。山田さんのような「通じる」を自分も求めていたんだ!という人には、間違いなく何かが「通じる」はず……!
<佐藤>
著者プロフィール
山田ズーニー(やまだ•ずーにー)さん。岡山県生まれ。ベネッセコーポレーションに入社し、進研ゼミ小論文編集長をつとめたあと、独立。通じあうための方法を巡る論考を多数発表している。著書に『伝わる•揺さぶる! 文章を書く』『理解という名の愛がほしい』『17歳は2回くる』などがある