■書名:多職種連携から統合へ向かう地域包括ケア 地域づくりのトップランナー10の実践
■著者:宮下 公美子
■出版社:メディカ出版
■発行年月:2017年5月
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介護職も“我がこと”と考えたい!地域包括ケアシステム成功のポイント
2025年には、団塊の世代が全員、75歳以上の後期高齢者になる。しかし、増え続ける高齢者の介護や医療のニーズを、既存の病院や施設だけで満たしていくことは難しい。
そこで現在、進められているのが、医療や介護が必要になっても、住み慣れた自宅や地域で暮らし続けるための「地域包括ケアシステム」づくりだ。
「地域包括ケアシステム」とは、住まい・介護・医療・予防・生活支援を一体的に提供できる仕組みのこと。普及のために大きなポイントとなるのは、人と人とのつながりを意識した「地域づくり」であると考えられている。
本書では、「地域づくり」に取り組み、住民などを巻き込んでつながる仕組みづくりに成功した10組の実践例を紹介している。
特別養護老人ホーム、デイサービスといった介護施設や高齢者住宅だけではなく、見守りネットワーク、食支援のプロフェッショナルなどさまざまな専門職、地域、事業所が、独自の試みを通して、高齢者や地域との結びつきを確かなものにしている様子がつづられている。
実践例の一部は下記のようなものだ。
・「銀木犀(ぎんもくせい)」(千葉県浦安市)
「生き生きと暮らし、安心して死ねる」居心地のいい住宅・街づくりをめざすサービス付き高齢者向け住宅。
バーチャルリアリティを活用した「認知症体験」で認知症への理解を深めるほか、地域住民が参加できるイベントも数多く実施。
・「エムダブルエス日高」(群馬県高崎市)
大規模なデイトレセンターを運営。スーパーなど地元の他業種と連携し、地域産業の活性化をめざす。
・「黒田キャラバン・メイト」(静岡県富士宮市)
一般住民によるキャラバン・メイト(認知症サポーター養成講座の講師役)が、無料で地域の高齢者が参加できるサロンを運営している。現在、住民全員の養成講座受講をめざし活動中。
・「新宿食支援研究会」(東京都新宿区)
東京都新宿区を「最期まで口から食べられる街」とするために、専門職が「結果を出す」をキーワードに、食支援の取り組みを行っている。
紹介されている実践例は、それぞれアプローチは異なるが、共通しているのは「地域での支え合い」と「住民とのつながり」だ。
高齢者同士のつながりだけでなく、子どもや次世代の高齢者となる40代以降の人々にも門戸を広げている。
このようなコミュニケーションを通して、介護や認知症に対する意識が住民同士で共有されていけば、介護される人や介護する人にとっても、暮らしやすい街になるのではないだろうか。
<この本で紹介したトップランナーは、これから来る「厳しい時代」を“我がこと”として受け止め、行動を起こした方たちです。できる限り最善の状態で、日本を次世代に渡していきたい。そんな思いで一歩を踏み出し、この日本の介護、医療、福祉を少しでも良くしようと、先の見えない時代を走り続けているのです。>
特に印象的なのは、たった1人で始めた活動が、地域で広く知られるようになった「黒田キャラバン・メイト」。
「国が推進する地域包括ケアシステム」という言葉だけを聞くと、何やら大ごとで難しいものと考えがちだ。
しかし、たった1人での活動でありながらも、粘り強い働きかけを行ううちに、賛同する人や協力する人が増えていったという。
これは他の団体でも共通して見られることで「持続することの大切さ」と「地域のために」という思いが成功のポイントとなる。
「地域づくり」に熱い思いを持つトップランナーたちの話はどれも興味深く、引き込まれるエピソードばかりだ。
「地域包括ケアシステムとは?」「具体的にどのような取り組みを?」という疑問を抱える介護職の、大きなヒントとなるのではないだろうか。
著者プロフィール
宮下公美子(みやした・くみこ)さん
介護ライター・社会福祉士・臨床心理士。早稲田大学卒業後、リクルートで広告制作に携わり、その後フリーライターとなる。1999年以後、介護ライターの傍ら、社会福祉士として要介護認定調査員、介護保険サービス苦情相談員、成年後見人などを務める。2013年に臨床心理士資格を取得。現在は認知症を持つ人の支援に力を入れる神経内科クリニックで、臨床心理士としても勤務している。
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