■書名:母が若年性アルツハイマーになりました。〜まんがで読む 家族のこころと介護の記録〜
■著者:Nicco(にっこ)
■出版社:ペンコム
■発行年月:2018年4月
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利用者家族の気持ちが分かる!在宅介護の姿を愛情込めて描くマンガエッセイ
手先が器用で2人の娘にはワンピースを手作り。30代で始めたレザークラフトは、自宅で教室を開き作品展も開催するほどの腕前。
明るく社交的でダンスに水泳、英会話と心豊かにはつらつと生活してきた母が57歳でアルツハイマーを発症。
年を追うごとに病状が進んでいく母と、その変化に対応しながら介護する父の姿を、イラストレーターである長女のNiccoさんが18年にわたって見つめ、ユーモアと愛情たっぷりに、マンガでまとめたのが本書だ。
母の介護に途中から関わるようになった、「公益社団法人 認知症の人と家族の会 千葉県支部」が発行している会報誌「ぽ~れぽ~れ 千葉県支部版」に掲載されたマンガが本書の元になっている。
父は会社人間で家庭を顧みることなどなく、「定年で仕事をやめたら絶対ボケるよね」と娘たちに言われていた。その父が、介護サービスを利用しながら自宅で母の介護をすることを決意し、それを全うする姿に感銘を受ける。
アルツハイマーについての情報を次々と入手して、妻である母が快適に過ごせるようにいろいろと手を打っていく父。
反対に、アルツハイマーとは無縁だろうと考えていた母のあまりの変貌ぶりに、なかなかその事実を受け入れることができず、仕事や子育てを口実に実家に寄り付こうとしなかった娘。
著者のNiccoさんはそんな自分の弱さもきちんと描いている。
本書には、きれいごとだけではない「介護の現実」が時系列で書かれている。
大切な家族に降りかかった一大事を、周囲のサポートを受けながら乗り越えていく様子に、最後は死という永遠の別れであるにも関わらず、心が温かくなる。
Niccoさんは、認知症の人が“その人らしい生活”を送れるように支援するツール「センター方式シート」を父と一緒に記入していくことで、アルツハイマーを発症した母の行動の意味が分かるようになったという。
そして、次第に現実の母を受け止められるようになる姿がリアルだ。
<認知症の病気の部分ではなく、その人本来の人となりやこれまで歩んできた人生を知ることは、適切なケアのためにとても大切なこと。それこそ、介護する側が初めに知っておくべきことなのだと強く思いました。>
病状が進んで車椅子が必要になったときでも、できるだけ自分の足で歩いてほしいと願う父。そんな父の希望に介護施設が即座に対応し、歩行器による歩行訓練をしてくれたエピソードも紹介されている。
後日、施設長がNiccoさんに次のように話してくれたという。
<介護職を長くやっていると、利用者さんの病状を先回りしがちになるんです。そろそろ車椅子だな、とか。でも、ご家族は違いますよね。あの時、お父さまにメールをいただいて、ご家族の思いにも気づくことができました。>
介護に携わる者は、利用者の現状に即した介護を提供することが大切だ。
でもそれだけではなく、利用者本人がどのような人生を歩んできたのか、また家族は何を望んでいるのかということにも心を配る必要があることに気づかせてくれる。
介護現場で働く介護職にとって、利用者の人生をサポートする介護とは何かを考えるきっかけにもなる1冊だ。
著者プロフィール
Nicco(にっこ)さん
イラストレーター、造形作家。多摩美術大学卒業後、企業の宣伝企画課、デザイン事務所勤務を経て、出産を機にフリーランスに。雑誌、書籍などのイラストやオブジェを制作。現在は子どもアトリエ講師としても活動中。夫、娘、息子の4人家族。千葉県在住。近くに住む実母が若年性アルツハイマーになり、母の介護をする父を手伝うようになる。2009年8月から7年間、公益社団法人 認知症の人と家族の会 千葉県支部発行の会報誌に、両親の様子を描いたエッセイまんが「母が若年性アルツハイマーになって」が掲載される。