こんにちは、身体技法研究家の甲野陽紀です。前回までの「思う」と「感じる」の不思議な関係、いかがでしたか。“こうすればこうなる式”の術ではないので、つかみづらいところもありますが、この関係を自分なりに深めておくと、仕事の現場や人間関係においてもきっと役立つと思いますよ。では、まとめです！
＜協力 身体技法研究家 甲野陽紀氏／文・構成 佐藤大成＞
タ 前回までの研究稽古も驚きと発見の連続だったので、まだその“衝撃波”を整理しきれていない感じなんですが、「カラダってこんなにも正直なものなんだ！」ということを毎回、教えてもらったなあという気がします。
陽 その感覚はわかりますね。カラダにカラダのことを教えてもらう時間、それがこういう稽古だなあとわたしもよく思います。そこがスポーツの練習なんかと違うところですね。
タ スポーツだと勝ち負けの方に「思う」が引っ張られてしまうんでしょうね。
陽 カラダを動かすことが、勝つための手段になってしまいますからね。そうすると「感じる」は遠くにいってしまって、結局自分のカラダの感覚についてはよく知る機会もなく、筋力をつけるとか、ある動作のスピードを高めるような技術だけに関心が向かってしまいがちです。すると、いわゆる「若さのピーク」が過ぎるとともにカラダも思うように動かなくなっていく、ということにもなりますね。
タ つまり、長続きしない、ということですよね。
陽 だと思います。介護術に代表されるような、生活と密着したカラダの技術というのは「長く高いレベルを維持し、続けていける」ということもとても大事な要素だと思うのですが。
タ いやー、まったくその通りだと思います。介護の現場に伺うと「介助のシゴトは重労働だから、若い人じゃないと……」というような言葉もじつによく聞くんですけど、陽紀先生と一緒にこうした研究稽古をしてみて、ぼくが実感することは、カラダって年齢をこえていけるような可能性が十分にあるし、それをふだんぼくらは知らないだけなんだなあ、ということなんです。日々是介護術では、そのことをまずみなさんに伝えたいなあと思っているんですけど。
陽 大事なことですよね。出来ると思ってやるのと、出来ないだろうと思ってやるのではそれこそ、カラダの「感じる」が変わってきますから。
タ はい、そのことを今回の稽古がまさに教えてくれたなあ、と思います。カラダは「思う」をちゃんと受けとってくれるわけですから。
陽 そのとき、カラダに実感があるかどうか、ということもポイントですね。カラダは実際に感じる感覚を通して「思う」を表現していくのだなあ、とも思いますから。
タ そうなんですね。だから棒をもつ稽古のときでも、「つもり」だけだと、カラダのつながりが弱いままだったんですね。
陽 そこから連想していくと、「思う」の方向を変えていくうちに、あるところでカラダの実感と出会う可能性があって、そこでまたカラダの感覚が変わっていくということはあるんだろうと思いますね。
タ なるほど……ということは「棒をもっているつもり」のときも、その「思う」を何か別の方向に変えてみると、カラダの感覚は変わってくるかもしれない、ということですか？
陽 あると思いますよ。たとえば、以前に稽古したように、指先を気にかけるという方向に「思う」を変えれば（参照：指先のなぞ）、そこにカラダの実感は生まれてくることになります
からね。
タ それはおもしろいですね。「これはこうだ」と思い込んでしまわずに、ちょっとその方向性を変えてみると何かが見えてくるかもしれない、と。
陽 はい、思い込みはそこで止まってしまいますから。介護のシゴトはほんとうに忙しくてたいへんなことだろうと思うのですが、タネエディターがいまいわれたようなことをふだんから気にかけていると、毎日、どこかで小さな発見がきっとあると思います。それがシゴトのやりがいにもつながっていくことかなあ、と思ってわたしも稽古をしているんですよ。
タ いやいや、まったく。教えられて覚えたことより「自分で発見して覚えたこと」のほうがずっと強いはずですからね！-----ということで、次回、乞うご期待です！
◆ Profile ◆
甲野陽紀(こうの•はるのり)
身体技法研究家。東京•多摩市生まれ。高校卒業後、「古武術介護」の提案者としても知られる武術研究家の父、甲野善紀氏の補佐役として各地の講習会などに同行する中で、ささいな動きの違いから感覚がさまざまに変わっていくカラダの不思議さ、奥深さを改めて実感し、特定の方法やジャンルによらない独自の視点からの身体技法の研究を始める。見る、触れる、曲げる、といった、わたしたちが日々、何気なく行っている動作からカラダを見つめ直すことで新しい感覚が生まれていく“発見の体験”は、多くの方の共感を呼び、全国各地の講習会、講演会などで活躍中。スポーツや武術、音楽、医療、介護、運動嫌いの方のための身体講座まで、講座のテーマは幅広く開かれており、ファン層も多彩。都内では、朝日カルチャーセンター新宿•湘南、よみうりカルチャー自由が丘などで定期的に講習会を開催している。日々のくわしい活動はオフィシャルウエブサイトへ。
http://hkhp.p2.bindsite.jp/index.html
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