■書名:マンガでわかる 認知症の人の心の中が見える本
■著者:川畑 智
■漫画:浅田 アーサー
■出版社:わかさ出版
■発行年月:2019年7月
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こんなに違う!認知症の人が見ている世界をマンガで比較・解説
認知症といえば、記憶力や判断力がなく、妄想や幻覚の症状があり、会話も成立しないから、介護をするのは大変だというのが一般的なイメージだろう。
認知症という病気だから仕方がないと半ばあきらめつつ、どうしてこんなことをするのだろうかと不思議に思う人は多いのではないだろうか。
マンガで認知症の人の心の中をわかりやすく解説してくれる本書は、そんな思いを抱く人にぴったりの一冊だ。
本書の構成は次の通り。
プロローグマンガ「ここはひざ!」
はじめに
第1章 認知症の世界を覗いてみよう
第2章 認知症の「?」をひも解く事件簿~心の中を推理するコツ~
あとがき
プロローグマンガでは、著者の川畑さんの駆け出し時代のエピソードが語られている。
認知症になると何もわからなくなってしまうわけではなく、自分たちとは少しずれてはいるものの、こちらの言うことを理解していると川畑さんが気づいたきっかけの物語となっている。
第1章は、「何度もおなじことを聞く」「帰り道がわからない」「『あなたが財布を盗んだの?』と言う」「そこにないものが見えたり、見間違えたりする」など、
認知症によくみられる10の症状をマンガで紹介し、そのあとに解説をつける展開になっている。
一つの症状について見開きで紹介し、
右側には「家族やケアをする人が見る世界」、左側には「認知症の人が見る世界」が描かれている。
周囲の人と認知症の人との受け止め方の違いがはっきりとわかる仕組みだ。
続く解説のページも、その症状が起きる原因や心理状態などが一言でまとめられ、わかりやすい説明がされている。
また、文末にはその症状への対応のポイントがまとめてあるので、一目で確認することが可能だ。
第2章では、「深夜に老人ホーム内を歩き回る理由は?」「丁寧なケアをしても介護拒否が治まらないのはなぜ?」「『サラダが怖い』と言って食べようとしない理由は?」など、やはり10のケースについて、
その問題が解決されるまでのプロセスをマンガで紹介。マンガに、文章による解説を加えてゆく形になっている。
第1章と同じくわかりやすい説明で、その症例の対応のポイントが付いている。
<認知症の人は、理由もなく不可解な行動や言動を取るのではありません。むしろ、認知症の人は懸命に考えているのです。認知症の世界に思いを馳せ、その心の内が見えれば、不可解な行動にも理由のあることがわかります。理由がわかれば、ケアをする側の心理的な負担が軽くなり、優しく接することができます。>
認知症の人の訴えに適当に「ハイハイ」と答えたり、「前にも言ったでしょう」と叱ったりすれば、言われた本人は「不安」になる。その「不安」が解消されないままだと、やがて「不満」を感じるようになり、周囲の人に「不信」を抱くようになる。それが募ると心穏やかでいられない状態すなわち「不穏」となって、介護拒否や暴力・暴言となる。
この
「不安」→「不満」→「不信」→「不穏」の流れが「症状悪化の4ステップ」だ。
この負のループに陥らないためには「不安」の段階で問題を解決することが大切だと著者の川畑さん。
不安を解消すれば、日々の生活でほっとすること、つまり「安堵」ができ、それが多くなれば「安心」となり、「安着」して「安穏」な状態で何事もなく生活を送れるようになるという。
ケアをする人は、認知症の人が平安に生活できるように「安堵」→「安心」→「安着」→「安穏」のループを目指して、
認知症の人が見ている世界を理解し、認知症の人に寄り添う行動がとれるようになりたいものだ。
そのためのヒントが詰まった本書をぜひ読んでいただきたい。
著者プロフィール(引用)
川畑 智(かわばた・さとし)さん
理学療法士。株式会社Re学代表。熊本県を拠点に、病院や施設における認知症予防や認知症ケアの実践に取り組むとともに、認知症予防プログラムの開発責任者を務めるなど、国内外の地域福祉政策にたずさわる。年間200回を超える講演活動を行い、介護予防に関する普及啓発活動にも力を入れている。平成29年には認知症の人とその家族を支える新しい資格制度「ブレインマネージャー」を創設。
漫画家プロフィール(引用)
浅田 アーサー(あさだ・あーさー)さん
2013年に『血統BOUT』で白泉社ヤングアニマルの新人賞に入賞し商業誌デビュー。ヤングアニマル嵐(白泉社)、漫画ゴラクスペシャル(日本文芸社)などで短編マンガを発表。