■書名:利用者の思いにこたえる 介護のことばづかい
■著者:遠藤織枝、三枝令子、神村初美
■出版社:大修館書店
■発行年月:2019年2月
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介護職なら知っておきたい!相手を思う気持ちが伝わる言葉づかいの教科書
「お着替えが済んだらお口ゆすいで、お顔を洗いましょ」
介護現場で働く人で、もしこの言葉づかいに違和感がないならば、自分の言葉や言葉づかいを再点検したほうがいいかもしれない。
本書は言葉づかいの教科書として最適だ。
著者によるアンケート調査によると、介護現場で使われた言葉や言い方によって、
不快に感じたり傷ついたりする利用者や家族が少なくないことがわかったという。
本書には、その調査で集められた利用者や家族からの“生の声”が詰まっている。通常ならば介護する側には届きにくい声だ。
それだけに、新米からベテランまで、介護に関わる人なら謙虚に耳を傾けたい内容になっている。
本書で取り上げている項目の一部を紹介すると次のような内容だ。
ていねいなほどいいわけではない/敬語回避作戦/「です・ます」をつけて話してください/幼児扱いは不快という声/「トイレ」より「便所」に行きたい/オノマトペを上手に使う/利用者・家族にわからない専門用語や略語/気になる記録の言葉/たとえその人が認知症であっても
最初に挙げた「お着替えが済んだらお口ゆすいで、お顔を洗いましょ」の例では、ていねいを心がけるあまりに、何にでも「お」をつけてしまったと思われる。しかし、これではまるで幼稚園言葉だ。
このような言葉づかいに対しては、多くの家族から「幼児扱いは不快だ」「普通の大人として敬意をもって接してほしい」という声が寄せられていることを知っておくべきだろう。
著者の3名は日本語の専門家であることから、特に敬語の適切な使い方についての説明が明快だ。
対話の基本スタイルは、相手への心づかいとして
丁寧語の「です・ます」体でと指導しながら、
「ていねいなほどいいわけではない」とも言っている。
最近よく聞かれるようになった「てもらっていいですか」「させていただきます」という言い方については、使い過ぎないように注意を促している。
また、難しい敬語を回避する方法もアドバイスしてくれていてありがたい。
・「向こうを向いていただけますか」の代わりに「ましょう」を使って「向こうを向きましょう」
・「今日シャワーを浴びられましたか?」とすべて言ってしまわずに「今日シャワーは?」で止める
・「上手にお作りになりましたね」の代わりに、自分が感動した感想として「わあ、素敵」と言う
などが例として挙げられている。
敬語に不慣れな新人介護職には、特に次の言葉が救いになるだろう。
<会話の場面では、個々の敬語よりも全体の言い表し方が作用する。敬語が不足していたり、間違っていたりしても、思いやり、気配りがあり、心を動かす表現があれば、コミュニケーションはうまくいく>
つまり介護現場での言葉は、
相手を思う気持ちが言葉にできているかどうかが大切だということだ。
ていねいさを追求することばかりに気をとられがちだが、本書をきっかけに、介護現場でのコミュニケーションのあり方を考えてみるとよいだろう。
巻末の付録「介護版 ミニ敬語講座」と「言い換えたい難しいことば」も、介護現場で是非役立てたい。
著者プロフィール(引用)
遠藤 織枝(えんどう・おりえ)さん
1938年岐阜県生まれ。お茶の水女子大学人間文化研究科修士課程修了、人文科学博士。元文教大学大学院教授。
三枝 令子(さえぐさ・れいこ)さん
1951年東京都生まれ。東京外国語大学大学院外国語学研究科日本語学専攻修士課程修了、学術博士。専修大学特任教授。
神村 初美(かみむら・はつみ)さん
1963年山梨県生まれ。首都大学東京人文科学研究科日本語教育学教室博士後期課程単位取得満期退学、日本語教育学博士(首都大学東京)。東京福祉大学准教授。