2015年1月27日に、認知症施策推進総合戦略「新オレンジプラン」が発表されました。しかし、新聞報道などでの扱いは小さめ。ちょうど大きな国際的事件の報道があったせいもありますが、2012年9月に発表された「オレンジプラン」からそれほど大きな変更点がなかったことも、扱いが小さかった理由かもしれません。
そもそも、5年計画だったはずの「オレンジプラン」。2012年に策定してから、まだ2年半足らずというタイミングで新たなプランが発表されたのは、安倍首相の指示によるもの。昨年11月に世界10か国以上から300人以上の専門家が参加した「認知症サミット日本後継イベント」において、「新しい認知症戦略を策定する」と発表したためでした。
大きな変更点のない新プランですが、医療や介護体制の充実を図るために、医療・介護職への研修や、認知症診断施設の整備、初期対応等の目標数値が高くなっています。
認知症の介護に当たる職員 全員受講の研修も
中でも、注目したいのは、認知症介護に携わる可能性がある
介護職全員の受講を目指す「認知症介護基礎研修(仮称)」を導入することです。
これはeラーニング(インターネットやパソコンなどで学習する仕組み)などを活用し、新任の介護職等が認知症介護に最低限必要な知識・技術を習得するというもの。2016年度から本格的にスタートする見込みです。
認知症について多くの研究が積み重ねられ、認知症介護の新しい実践が進んできたのはここ10年ほどのこと。それ以前から介護職に就いている人は、自ら研修などに参加しない限り、認知症についてしっかりと学ぶ機会がなかなかありませんでした。そのため、ベテランといわれる介護職の中にも、「実は認知症の人は苦手」という人が少なくありません。
そこで、国は認知症介護についての知識と技術を、認知症に関わるすべての介護職に習得してもらうこととしたのです。
しかし、認知症介護は介護の中でも特に個別性が高いもの。10人の認知症の人がいれば、10通りの視点、理解、対応が必要です。そのため、認知症介護の多くの研修では、講義などを一方的に聞くだけでなく、認知症の人との実際のやりとりを想定した疑似体験をするなど、実践を重視しています。
それを、今回eラーニングという、対面でのやり取りもない学び方でどれだけ身につくのか…。やや疑問が残ります。
大切にしたいのは認知症の人か? それとも病院経営か?
さらに、今回の新プランには、
行動・心理症状(BPSD)や身体合併症等への対応として、「循環型の仕組みの構築」という聞き慣れない表現がありました。
これは、認知症の状態に応じて最もふさわしい場でサービスが受けられる仕組みをつくるということ。精神科病院への入院もこの仕組みの一環であり、「精神科や老年科医療は介護に対する後方支援と司令塔機能を果たすものだ」としています。
さらには、「慢性の行動・心理症状や中重度の身体合併症がある場合は、長期的に専門的な医療サービスを受けることも必要だ」、とも。
新オレンジプランでは、このように医療や病院の役割が特に強調されており、波紋を呼んでいます。
このあたりの表現は、最終段階で自民党議員から「病院の役割をもっと盛り込むように」という要望があり、修正したとの報道もありました。これを受けて、介護・医療、報道関係者は国を強く批判しています。
病院を強調している背景にあるのは、統合失調症患者の地域復帰等による患者の減少で「精神科病院の経営が悪化している」という実態。認知症高齢者の入院を受け入れることで病院経営を安定させる意図があるというのです。
「認知症の人やその家族の視点の重視」も謳われている新オレンジプラン。本当の意味で、当事者や家族が暮らしやすくなるよう、プランの実施に注目していきましょう。
<文:宮下公美子>
*認知症の症状やケア、病気の種類などについて、姉妹サイトの「オアシス介護」で特集しています。