次期報酬改定では自立支援介護が評価される
2018年度は、医療報酬と介護報酬の同時改定の年。介護保険制度については、「未来投資会議(※)」において、安倍総理より「お世話型」の介護から「自立支援」介護に軸足を移すという方針の表明がありました(*)。
さらに、2017年6月9日に発表された、「未来投資戦略 2017 ―Society 5.0の実現に向けた改革―」によれば、「自立支援・重度化防止に向けた科学的介護の実現」を進めていくとのことです。
※未来投資会議…安倍総理を議長とし、成長戦略と構造改革についての議論を行う会議
「未来投資戦略」では、自立支援介護に向けた具体的な取り組みは下記のようにされています。
・次期報酬改定で、効果のある自立支援を評価する
・自立支援等の効果が科学的に裏付けられた介護を実現するため、データの収集・分析を行うデータベースを構築し、2020年度からの本格運用を目指す
・データ分析による科学的な効果が裏付けられた介護サービスについて、2021年度以降の介護報酬改定で評価する。同時に、そうしたサービスを受けられる事業所をウェブサイト等で公表する
まだ、効果のある自立支援をどのように評価するのか、評価指標は決まっていません。しかし、要介護度の改善だけを評価指標にしてしまうと、改善が見込めない利用者の排除が懸念されるなど、反対意見が多く聞かれます。
そもそも自立とは、何をもって自立というのかの定義も明確ではありません。自分で歩ける、料理ができる、入浴できるなど、身体的自立だけが自立ではありません。自分で選択できる、意思決定できるなどの精神的自立も重要です。
状態の改善、重度化予防という意味で言えば、何をしても無反応だった人が呼びかけに答えるようになった、笑顔が少なかった人がよく笑うようになった、なども、該当しそうです。
しかし、そうした状態改善は、要介護度を決めるデータを提供する認定調査においては、ほとんど評価されません。
ビッグデータの分析で「効果的な自立支援介護」を提供するデイサービス
一方、科学的データに基づいた自立支援に効果のあるサービス提供という点では、1日数百人単位の利用者がいる、あるデイサービスの取り組みが注目されています。
そのデイサービスでは、利用者の入退館、その日参加するアクティビティを全てコンピュータで管理しています。
アクティビティは、歩行訓練や体操、陶芸、手芸、スポーツ吹き矢など、200超もの種類が用意されています。利用者は来館すると、その日参加したいアクティビティを自分で選んでコンピュータに登録し、参加します。
また、初回利用の時のアセスメントでは、歩行速度、握力、ファンクショナルリーチテスト(※)などで身体機能を測定。その後も3ヶ月に1回測定して、機能改善が図れているかどうかを検証し、介護スタッフが弱い部分を改善できるアクティビティを紹介しています。
※ファンクショナルリーチテスト…転倒リスクを評価するテスト
全てがコンピュータで管理されているため、このデイではどのような身体機能の利用者がどのようなサービスを利用しているかという、膨大なビッグデータを蓄積しています。
そこでそのビッグデータを活用し、大学と共同で利用者の状態像ごとにどのようなアクティビティを利用すると状態が維持改善するかを分析。状態像に応じた適切なプログラムを組み、そのプログラムに基づいて取り組む人と、そうでない人を比較する研究を行いました。
すると、適切なプログラムに基づいて利用していた人の8割以上に、維持改善効果があったそうです。介護スタッフが利用者に上手にプログラムを勧め、励ましていることもまた、状態改善につながっています。
気持ちの状態改善も評価してほしい
「未来投資会議」でイメージしているのは、こうしたプログラムによって維持改善を図っていくことかもしれません。
身体機能が改善するのはとても望ましいこと。本人の状態に適したプログラムが提示され、最短距離で身体機能が改善できるのであれば、プログラムの導入は歓迎されそうです。
要介護度や、身体機能を示す数値の改善によって、効果的な自立支援介護が提供されていると評価するのは、「科学的」でわかりやすいと思います。
しかし、人の自立度は体の機能の善し悪しだけで決まるわけではありません。プログラム導入の際は、いかに楽しく取り組めたか、どれだけ気持ちが前向きになれたかなど、気持ちの部分の維持改善についても、何らかの配慮や評価がされることを期待したいと思います。
<文:宮下公美子 (社会福祉士・臨床心理士・介護福祉ライター)>
*どう変わる医療と介護 2018年度 同時報酬改定 「自立支援」重点化、課題は(毎日新聞 2017年7月2日)