介護の仕事をしていると、高齢化が進んでいること、そして核家族化がますます進んでいることを肌で感じるのではないでしょうか。平成6年に14%を超えた高齢化率は、平成26年10月には26%に。すでに、4人に1人が65歳以上という社会です。しかも、高齢者がいる世帯の半数以上が、一人暮らしや高齢者夫婦世帯となっています。
高齢化というと、高齢者が増えていくことばかりに目が行きがちです。しかし、高齢化率が高まっているのは、高齢者が増えると共に子どもや働く世代の人口が減っているから。人口全体に占める高齢者の比率が高まっているということです。
若い世代がいなくなると活気が失われてしまう
わかりやすいのは、「高齢化の縮図」といわれる、昭和時代に建てられた団地群です。たとえば、東京都板橋区のUR高島平団地や東京都多摩市・八王子市にまたがる多摩ニュータウン。開発初期に入居した住民の年齢が上がり、その子ども世代は団地を出て別に家を構えています。親世代だけが団地に残ったことで、高齢化が進んでいるのです。
子どもや若い世代が少ないと、団地内全体の活気が失われていきます。住民同士の交流も減り、孤立死のリスクも高まります。同じ状況が、東日本大震災の被災地・福島の仮設住宅でも起こっています。そこで、高齢化した仮設住宅や団地に大学生が住み込み、住民と協働で仮設住宅、団地の活性化や地域づくりに取り組む試みが増えています(*1、2)。
事業者と利用者以前に、「人と人」としてつながる
団地の活性化、地域づくりとしては、介護事業所による取り組みもあります。団地内で小規模多機能型居宅介護の事業所を運営するという試みです。団地の1階などにテナントとして場所を確保するのではなく、一般の住戸を改装し、そこで小規模多機能を運営しているのです。
この事業者は、「団地」という立地であれば、住民と縦・横・斜めという立体的な関係を築けると考えて開業。一般住戸の一つとして溶け込むことで、利用者ではない住民も気軽に立ち寄っているそうです。元気なうちから気軽に訪れることができれば、住民と介護事業者は、「利用者」対「サービス提供者」ではなく、「人と人」としてつながることができます。
さらには、事業者が核となって、交流が少なかった住民同士を結びつけていけるといいですね。そうすれば、要介護になっても団地内で住民同士の助け合いの力も借りながら、小規模多機能のサービスを利用し、多くの人達に見守られながら暮らし続けられるのかもしれません。
多世代が関わる多機能なサービスが理想
その見守りに関わるのは、高齢者だけではなく、子どもであったり、子育て中の母親であったりしてもいいのではないかと思います。事業所がいろいろな人に向けて開かれていれば、利用者も高齢者だけでなくてもいいはず。学校帰りの子どもが働く親が帰るまで立ち寄って過ごしたり。母親がちょっと買い物に行く間、高齢者が赤ちゃんを預かったり。預かってもらった母親が、おかずを差し入れたり。
多世代がそんなふうに入れ替わり立ち替わり訪れ、自分ができることをし、できないことを助けてもらう。そんな住民同士の交流の拠点を持つ地域づくりが、地域包括ケアの理想型なのだと思います。制度的には、まだそうした事業の展開は難しいのかもしれません。しかし、こうした事業の参考になるのが、
以前紹介した富山型デイサービス。年齢や障害の有無にかかわらず、誰もが利用できる共生型ケアで高い評価を受けています。こうしたサービスが利用者の心や身体を健康に保つのに有効だと、すでに成果を示してくれているのです。
住民、学生、介護事業者など、いろいろな立場の人がアイデアを出し合う。そして、様々な人達が助け合いながら安心して暮らせる地域をつくる。そのために、自分にできることは何かを考えていきたいですね。
<文:宮下公実子(介護福祉ライター・社会福祉士)>
*1 福島大生ら、仮設住宅「いるだけ支援」(読売オンライン 2015年8月25日)
*2 高齢化の団地、大学生が住みこみ活性化 パソコン教室など住民と交流 (産経新聞 2015年6月10日)