希薄な人間関係では「辞めたい」を止められない
もう仕事を辞めてしまいたい。そんなふうに思うのは、どんなときでしょうか。大きなミスをしたとき。自分の能力に限界を感じたとき。やってもやっても報われないと感じたとき。理由はいろいろあると思います。ただ、おそらくそうしたことは、辞めることを決断する最後の“引き金”になっただけかもしれません。
本当の理由は人間関係ではないでしょうか。以前、紹介した介護職の離職理由の1位も、「職場の人間関係」でしたね。(
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それは、そりの合わない同僚がいたり、上司が独善的だったり、意地の悪い先輩がいたりという、人間関係の悪さだけを指すのではありません。互いに相手への関心が薄い、思いやり合う関係ができていない、「人間関係の希薄さ」も含まれると思います。
嫌なことがあった時、愚痴を聞いてもらっただけですっきりできること、ありますよね。悩んだときには、相談できる相手がいると気持ちを切り替えることもできます。職場にそういう仲間がいれば、何か問題が起きても、それをいつまでも引きずらないですむわけです。だから人は多少給料が安くても仕事がおもしろくなくても、人間関係の良い職場では働き続けようという気持ちを保ちやすいのです。
しかし、愚痴をこぼしたり、相談したりできる人間関係のない職場だったら? そもそも、この人たちと働いていて楽しい、これからも一緒に働きつづけたいと思えない職場だったら? 何か嫌なことが起こると、プツリと気持ちが切れて、もう辞めようかな、と思ってしまうのではないでしょうか。
そこで、同期の絆を深め、上司からの期待を伝えるなど、支え合える職場の人間関係づくりを目的とした新人研修が注目されています(*)。
記事によれば、この研修の受講者の離職率は3%にとどまるとのこと。介護労働安定センターの調査によれば、介護業界の離職率は16.5%。支え合える仲間がいることは、離職を思いとどまらせる大きな要因となるようです。大切なのは、「自分はここにいていいのだ」と思える、“居場所”が職場にあるということなのかもしれません。
仲間、そして仲間と過ごす時間が自分を支える“居場所”に
そんな“居場所”感覚を持ってもらえるよう、ある法人では、法人のトップである総施設長が1年に一度、200人を超える職員全員と一対一の面接を行っているといいます。1人30分から長いときは1時間以上。仕事のことだけでなく、家族のことなど、どんなことを話してもよいそうです。毎年、聞き上手の総施設長と話をするのが楽しみだという職員もいます。
総施設長は、そこで職員が話したことをきっかけに、職場で顔を合わせると、「あのとき話していたお嬢さんのけがはよくなった?」など、声をかけてくるのだとか。またこの法人では、元気がないなど、様子が気になる職員には、上司や先輩のほうから声をかけ、相談に乗るようにしているのだといいます。これは、一人ひとりの職員の様子をきちんと見ていないとできないことです。
トップが職員一人ひとりを大切にし、職場でも上司が職員に細やかに目を配る。そんな組織風土のこの法人では、やはり離職率が低いそうです。それは、職員にとって、自分を大切にしてくれる職場が居心地のよい“居場所”となっているからでしょう。
互いに相手を思いやり、認め、大切にする。そんな仲間を職場で増やしていきたいですね。もし職場では難しければ、職場の外ででもそんな仲間を見つけていきたいもの。仲間、そして仲間と共に過ごす時間が、きっと自分を支えてくれる“居場所”になると思います。
<文:宮下公美子 (社会福祉士・介護福祉ライター)>
*人事改革で離職を防ぐ(毎日新聞2016年5月23日)